05 No data.

 見知らぬ部屋。見知らぬ場所。

 しゃがみこんでいた。何も分からないという不安が、なんとなく、そうさせる。


 背中に、指の感覚。なにか、指で背中をぱたぱたと、されている。


「わたしは、あなたの知り合いです。半日程度ですけど」


「俺は」


 振り返る。

 指が、背中から離れる。


「そうだ」


 このひと。

 街中で、どこに行けばいいのか分からなくて、彷徨さまよってて。このひとに、急に顔を覗かれたんだっけ。


「たぶん、ここがあなたの部屋です」


 このひとが喋るとき。指が、ぱたぱたと動く。いまも、俺の両腕で、彼女の指がぱたぱたしている。


「そうだ。部屋に入って俺の」


「でも、なんか、男のひとのものにさわるのが、その」


 ぱたぱたが止まって。また動き始める。


「はずかしくて」


 指がぱたぱたしているときしか、喋れないのだろうか。


「いや、勝手にさわりまくってください。俺には何の記憶も」


 部屋。黒一色。銀の装飾。トレーニング器具。透明な机。


「なんか俺、趣味わるそう」


「そんなことないですよ」


 彼女の、指。今はふともものあたりで、ぱたぱた。

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