第12話 懐かしい

 最高のデートにするためには。

 俺はその人にとって、人生で一番幸せな一時にすることが大切だと思う。

 なので俺は動物園を出たあと。

 何も言わず芽愛ちゃんを連れて、とある公園へ向かった。


 そこにある遊具はすべて錆びていて、とてもじゃないがデートで行くような場所じゃない。だが、ここは俺たちにとって思い出の場所。


 そう、ここは俺が芽愛ちゃんに告白したところだ。


 しかもしたタイミングもちょうど夕方。


 あの日の再現ができると思い、浮足立ちながら向かっていたのだが。


 神様は俺のことを応援してくれてないらしい。


「急に降ってきたね」


「…………まじ、か」


 雨はザーザー……と音を鳴らしながら、勢い良く降っている。

 

 ここからが本番だったのに。

 もうどうしようもないじゃん……。

 これじゃあ最高のデートにならない。

 

 他になにかないかな……。


「あのぉ〜なに悩んでるのかわからないけど、とりあえずビニール傘買ってきたよ」


 目の前のことに夢中で、コンビニで雨宿りしてることさえ忘れてた。 


 しっかりしろ俺。


 気合を入れ直そうと深呼吸したとき。

 

 ふと芽愛ちゃんが買って、手に持っているビニール傘に目が向かった。

 なんの変哲もないビニール傘なのだが。

 その手に持っているのは一本だけ。


「もしかして相合い傘?」


「うん。こういうのもやりたくて」


 俺が芽愛ちゃんの願望を前に断れるわけがなく。


 相合い傘をすることになった。


 とは言っても、初心なカップルがするようなお互い気を使って肩が濡れちゃう……なんてことにはならない。


 相合い傘は付き合う前、よくしてたので慣れている。


「懐かしいね」


「……あぁ」


 今先導しているのは芽愛ちゃん。


 どこに向かっているのかわからないけど、相合い傘で距離が近いため。最高のデートにできなかった傷が徐々に癒えていく。


「もしかしてなんだけどさ、一馬くんって告白してくれたあの公園に向かってたの?」


「まぁね。けど、こうやって雨降っちゃって全部台無しになっちゃったけど」


「おぉ……。それはそれは……」


 芽愛ちゃんは言葉に詰まっていたが。


 ばっと俺に真剣な顔を向け。


「私、相合い傘が一馬くんのことを好きになるきっかけだったんだよ」


「へ?」


「だってさ。今だってそうだけど私が濡れないように傘を向けてくれてるし、道路側に立ってくれるし。何も言わずに気遣ってくれて、なんていうかこう……グッと来たね」


 いつもより饒舌に説明してくれてるけど。

 そんなことしてた自覚、一切なかった。


「私が付き合う前、好きになる決め手になったのは相合い傘だけど……。一馬くんはなに?」


「え? そうだな……」


 きっかけ。きっかけ、か。


「俺は芽愛ちゃんのことを知ったその時から好きだよ」


「急にずるいこと言わないでよっ」


 本当のことなんだけどな。



  ▶▶▶



 芽愛ちゃんに連れられ到着した場所は、予想の斜め上をいく場所だった。


 外装はファンタジー世界に出てきそうな大きな城。

 部屋は防音対策がされ、部屋の真ん中に大きなベット。


「……なんでラブホ?」

 

「雨宿り、でね?」


 その言葉は不思議と嘘のように聞こえてきた。


 

  

 

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