第10話 がおー!
「がおー!」
「がおー?」
「がおー!」
隣りにいる芽愛ちゃんがさっきからずっとこんな調子だ。
場所は動物園。俺たちが見ている動物は、百獣の王と言われているライオンなのだが……。
完全に爆睡している。それもめちゃくちゃ気持ちよさそうに体を伸ばし、仰向けになりながら。
普通なら無防備すぎる姿に目がいくが、「がおー!」とライオンのことを起こそうとしてる芽愛ちゃんに目が吸い込まれる。
「一馬くん。このライオン、すごい賢いかも。私が鹿のカチューシャを付けててもビクともしないよ?」
芽愛ちゃんはそう言いながら、鹿のカチューシャについてる柔らかい角でツンツン突いてきた。
この動物園にいるどの動物より、今の芽愛ちゃんの方が圧倒的に可愛い。
「まぁ、自堕落を極めたような体勢で、呆けた顔で寝てるしね。これで起きたら逆にすごいと思う」
「起きてるライオン見てみたいなぁー」
「もう10分くらいここにいるけど、全然動かないから爆睡してるんじゃないかな」
「ネコ科だって言うのは知ってたけど、ここまでネコみたいなライオン初めて見た。ライオンって一馬くんみたいにかっこいい動物だと思ってたんだけどなぁ〜……」
俺はライオンというより、どちらかというとコアラとかそっち系だと思うんだけど。
まぁでも、かっこいいって言われるのは素直に嬉しい。
「これからどうする?」
ライオンの前で雑談しているが。俺たちはもうすでにある程度動物園を回り終えている。
時間的にまだ夕方にもなってないので、解散というのは早い。
「がおー!」
芽愛ちゃんは突然、俺を威嚇するように手をわしわししてきた。
「もうちょっと動物園にいよっか」
「うんっ。まだ可愛い動物たち見足りない」
そう言い、芽愛ちゃんは俺の手を引っ張って次の動物の場所へ移動していたが。
いきなり足を止め、振り返って俺の目を見てきた。
「まずいかも」
「……え?」
いきなりどうしたんだ?
「ものすごくまずいかも」
だからなにが?
そう聞こうとしたが、それは遅かったらしく。
芽愛ちゃんの肩に手が置かれた。
「あれ? お姉ちゃん?」
お姉ちゃん……?
芽愛ちゃんに妹がいるなんて初耳なんだけど。
「ゆ、
「? 年間パス持ってるからに決まってるじゃん。前、お姉ちゃんに言ったきがするんだけど……。って、この人誰?」
高校生くらいだろうか。背が小さくちょこんとしているが、そこ以外は芽愛ちゃんとすごく似ている。
俺のことを知らないってことは、芽愛ちゃんは前付き合ってたときときから何も言ってなかったんだ。
よし。ここはしっかり俺からあいさつしないとな。
「こんにちは。俺は三山一馬と言います。お姉さん、芽愛さんと真剣にお付き合いさせてもらってます」
「「………………」」
芽愛ちゃんは固まって、侑愛さんはぽかんと口を開けたまま。
あれ?
空気が凍りついちゃったんだけど。
いやちょっと待て。なんで芽愛ちゃんは、家族の侑愛さんに彼氏がいることをいってなかったんだ?
……もしかして俺はとんでもないことをしてしまったのかもしれない。
「よろしくお願いします三山さん?」
あぁ。この当たり障りのない笑顔、やばいやつだ。
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