第11話 認めさせる

「このカピパラはね、ネズミ目テンジクネズミ科カピバラ属に分類されてる齧歯類なんだよ」


「へぇ〜。早口言葉みたいですご〜い」


「種小名はギリシャ語で水の豚を意味してて、漢名も水豚って呼ばれてるの。だから、カピパラは豚と同じ……感じ!」


「豚……豚……。たしかに豚っぽいかも」


 妹さん、侑愛さんは鼻を高くして説明し。

 カピパラに夢中になっている芽愛ちゃんに気づかれないようチラッと俺を見て。勝ち誇った顔を向けてきた。


 ……これ、完全に俺のことを敵視してる。

 カピパラに向かう前、二人が話をしてる距離感からなんとなく感じ取っていたが、侑愛さんはべったべたなお姉ちゃんっ子。

 

 “お姉さんとデートしたいからもういいかな?”

 なんてこと、口にしたら激昂するに違いない。


 こうなったら、俺のことを彼氏として不足がないと認めさせないと。

 

「芽愛ちゃんってカピパラ好き?」


「う〜ん。可愛らしいとしか思わないかも。好きなのは一人の男性だけだよ」


「っ!?」


 不意打ちにも程がある!


「へ、へ、へぇ……。お姉ちゃんが好きなのは一人の男性、ね。な、なるほどなるほど」


 素で言ってるのかと思ったが。芽愛ちゃんは俺ではなく、悶絶してる侑愛さんの様子を確認してる。

 彼氏として認めさせたい気持ちは同じみたい。


 それならやり方は色々ある。


「あっそういえばこの前俺の家に泊まったとき、歯ブラシとタオル忘れて行っちゃったじゃん?」


「うんうん。忘れちゃったー」


 やけに棒読みだな。


「隠し事をしないって言う約束だから告白するんだけど……。寝ぼけて両方使っちゃいました」


「全然使ってもいいよ。あれ、また今度私が泊まったとき使う予定だから」


 そうだったんだ。


「なっなっなっ……」


 餌を待っている鯉のように口をパクパクする侑愛さん。

 どうやら今の会話がクリティカルヒットだったらしく、何も言い返してこない。


 ウキウキで芽愛ちゃんに豆知識を披露してたのを思い出すと、心が痛くなる。

 いっそこんな遠回しなことしないで、ストレートに言えばよかったかな?


「なるほど。そういうことだったんだ」


 少し申し訳ないことをしてしまったと思っていると。

 侑愛さんは小さく首を縦に振りながら俺の真横に来た。


「お姉ちゃんを奪われると思って恥ずかしいことをしちゃいました。あなたもお姉ちゃんに墜ちてるんですね」


「え?」


「心配しないでください。私、協力しますから」


「あり、がとう……?」


 これは彼氏として認められたってことでいい、のか?


 なんか言ってる意味が全然違う気もするけど。


「じゃあお姉ちゃんと三山さん。邪魔してごめんね。デート楽しんで!」


 侑愛さんは最後にニヤリと意味深な顔を俺に向け、去った。


 嵐みたいな人だった。 

 もし今度会ったら、俺たちの間で誤解があるのか言及したほうが良さそう。

 

「一馬くん。動物園はもう満喫したから別の場所行かない?」


「行こ行こ」


 急に色々あったけど。まだデートは始まったばかり。


 むしろ俺からしたらここからが本番みたいなものだ。


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