第9話 密着
復縁した日から約一週間が経った。
が、あれから俺たちの関係は進展していない。
というのも、お互い大学のレポートに追われ、進展するようなことをできていないのだ。
最初の方はまだ余裕があって大学で何度か顔を合わせてたけど。最近じゃたまにスマホで連絡する程度。
復縁の話を持ちかけたとき泣いて喜んでくれたのに、その熱が冷めたらどうしよう……。
そんな不安をし始めていたが。
ちょうど土曜日の今日。とうとうお互いレポートから解放された。
とは言っても、今すぐにでも会えるわけではなく。
今日は体を労り、明日思いっきりデートする予定になっている。
「ゔぁ……」
ネカフェで気を紛らわせようとしてわざわざ来たけど、目に見えないボディーブローを数発喰らってしまった。
それも、この場所は芽愛ちゃんと付き合う前、よく大学帰りに二人で漫画を読んでた場所なのだ。
ド忘れしてたけど、こうして偶然同じ個室に入ると。
妙に距離感があったあの芽愛ちゃんの姿が浮かんでくる……。
「一馬くぅーん」
そう、こうやっていつも小声で名前を呼んできたり。
……ん?
幻聴じゃなければ今、ドアの向こうから小声で俺を呼ぶ声が聞こえた気がするんだけど。
「なんでいるの?」
俺の目の前には、普段より気合が入ったピンク色のフリフリした可愛い服を着こなしている芽愛ちゃんが漫画を読んでいる。
「一馬くんの家に行く途中で、怪しげな足取りでどこかに向かってたから尾行したの」
「え。俺の家に行く途中?」
「うんっ。最近全然会ってなくて、寂しそうにしてると思って。……というか、私が会いたくなった」
芽愛ちゃんは自分でそう言って、頬を赤らめた。
自爆もいいところだ。
「連絡してくれれば家で待ってたのに」
「サプライズだよサプライズ」
芽愛ちゃんはニコニコしながらそう言い、俺の膝の上に移動してきた。
「これは一体?」
「サプ、ライ……ズ」
声だけで照れてるのがまるわかり。
「前に手、回して」
「あ、うん」
俺はされるがままに手を動かされ、後ろから抱きしめる形になった。
温もりを感じられて嬉しいけども。
なんなんだこの状況。芽愛ちゃんってこういうこと自分からするような人じゃないのに。
横からでも顔が真っ赤になってるのがわかる。
思えば、復縁してからまだこういう恋人らしいことしてなかったし。
久しぶりに対面してとうとう制御が効かなくなったのかな?
「「………………」」
静かな時間が流れる。
喋っているのもいいけど、こうして密着して静かになるのもまたいい。
日々の疲れが消えていく。
それからしばらく経ち。
座られている膝が痛くなり始めたとき。
芽愛ちゃんはパタンと漫画を閉じ、体を180度回転させ上目遣いで見つめてきた。
「どう?」
「……最高」
「なんか漫画に出てくる気持ち悪いおじさんみたい。あっ、一馬くんには言われて嬉しいからね」
ニコッと明るい笑顔を至近距離で見せられた。
わざとやってるのか、はたまた無意識なのか。
今の芽愛ちゃんはどっちかわからない。
と、可愛さに悶える前に。
せっかく気合が入った服を着てくれてるんだ。
ネカフェじゃなく、別の場所にでも行きたい。
「よかったらこれからデートしない?」
「するっ!」
嬉しさのあまりなのか、ギュッと俺の体に抱きついてきた。
……こんなことされると、俺も制御が効かなくなりそうなんだけど。
俺は色んなことを我慢し。
久しぶりに芽愛ちゃんと手を繋ぎながら、ネカフェを後にした。
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