第8話 再生の朝

 音が聞こえ、目が覚めた。


「ふわぁ」


 抱きしめて寝ていたはずの芽愛ちゃんがいない。


 キッチンの方からなにやら音が聞こえてくる。


「あっもしかして起こしちゃった?」


 キッチンにはピンク色のエプロンを着た、フライパンを火に当てている芽愛ちゃんがいた。


 買った食材の一部を使って、朝ごはんを作ってくれてるようだ。

 昨日の夜はあんなに苦しそうだったのに。なんか申し訳ないな。


 俺は立ち上がり手伝うためキッチンに向かおうとしたが、芽愛ちゃんに止められた。


「私が作るの」


 意地を張ってて可愛い。


 手伝いたい気持ちは山々だけど、可愛い姿を眺めているのもまたいい。


 まぁでも、とりあえず顔でも洗ってスッキリしてこよっかな。

 

 洗面台に見覚えのない歯ブラシやタオルが置かれていて、間違えて使っちゃったけど……黙っておけばバレないよな。

 別に間違えただけだし。悪いことなんてしてないし。


「できたっ」


 テーブルの上に目玉焼き、野菜、味噌汁、白米、ヨーグルトが並べられた。


 こんなバランスがいい朝ごはん、実家でしか食べたことがない。  

 芽愛ちゃんってすごいな。


「「いただきます」」


 バランスがいいだけではなく、すべて美味しい。


 一つ一つ味わいながら、お互い無言で朝ごはんを食べていたが。


 俺はふと「これでいいのか」と思い、箸が止まった。


 このままだと芽愛ちゃんとなんの進展もなく終わる。

 昨日の夜のこともあり、友人で終わるなんて嫌だ。

 こういうときは俺の方から踏み寄らないと。


 左手に持っていた茶碗を置き、箸も置き。

 俺は芽愛ちゃんに向き合った。


「芽愛ちゃん」


「な、なに?」


 真面目な俺に芽愛ちゃんの背筋が伸びた。

  

「俺はこの前、芽愛ちゃんことをフッたけど色々考えた結果……。また1から二人で始めたいって思った。どう、かな?」


 俺の言葉に芽愛ちゃんは顔を伏せ。

 大きく息を吐き、脱力し。

 少し体を震わせ。


「うんっ。またよろしく!」


 上げた顔には大量の涙が溢れていた。



  ▶▶▶



「隠し事は無しにしよう」


 泣きながら朝ごはんを食べ終え、ようやく落ち着いた芽愛ちゃんはいきなりそんなことを言ってきた。


「たしかに。隠し事もそうだけど、なんかあったら話し合いをするようにしたいな」


「だね。じゃあ早速私から隠し事を話すね」


「お、おう」


 随分いきなりだな。


「実は昨日の夜、心拍数を感じて起きてるか起きてないか確認したけど、あのとき起きてるってわかってました……」


「へぇ」


 うん。だろうな。じゃなかったら、独り言が多いおかしな人になるし。


 答え合わせができてスッキリしていると、芽愛ちゃんからキラキラした瞳を向けられた。

 この感じ、俺もなんか言わないといけないのか。


「えぇ〜。俺、芽愛ちゃんに隠し事なんてしたことな」

 

 あったわ。


「ついさっき芽愛ちゃんの歯ブラシとタオルを間違えて使いました」


「…………」


 そんな驚愕した顔しないでくれ!

 せめて表情だけじゃなくて、反応してくれよ……。

 俺ってそんなまずいことしたのか?


「ぷぷっ。はははっ!」


 え? え? 

 なんでいきなり爆笑し始めたの?


「やっぱり普段使ってる場所にある物をすり替えると、気づかずに使っちゃうんだぁ〜」


「……わざとやった?」


「いや」


「め、芽愛ちゃん?」


「えへへ〜」


 きっと、前付き合ってたときとは違うものになる。

 けど、きっとうまくいく。


 漠然としているが、これからのことを考えると胸の高鳴りが止まらなかった。





【あらすじ】

いつもありがとうございます

ブックマーク、★★★をもらえるとすごく嬉しいです


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る