第7話 キツく当たってた理由

「じゃあおやすみ」


「おやすみ」


 芽愛ちゃんがお風呂から上がったあと。

 特に雑談することなく、眠りについた。予定通りベットは芽愛ちゃんに譲ったので、俺は座布団の上。


 色々考えたいことはあるけど、芽愛ちゃんの方から何も言わないなら。明日、聞きたいことを自分から聞こう。


 そんなことを思いながらまぶたを閉じたが。


 なかなか眠れない。


 もう部屋を暗くしてから結構経つ。


 芽愛ちゃんは寝たのか?

 

「…………」


 物音一つ聞こえず、部屋は静寂に包まれている。


 静かってことは寝てるんだろう。


 そう思い一安心したときだった。


 寝返りとは思えないほどの大きさのベットが軋む音がし。静かになったかと思えば、俺の足元になにかが当たった。  


 これってもしかして幽霊とか……?


「あっ」


 芽愛ちゃんの声が聞こえてきた。


 少し目を開けどうしたのか見ようとするが、真っ暗で何も見えない。

 でも音から俺の方に向かってるのはわかる。


 芽愛ちゃんが何してくるのか知りたいし。とりあえず眠ったフリでもしとこ。


「どこに寝よう……」


 いや寝る場所はベットがあると思うんだけど。


 つい言いそうになったが。そんなことを考える暇もなく、俺の真横で音がし。その瞬間、耳元に吐息がかかった。

 

 この距離感、見覚えがある。


「起きてる?」


「…………」

 

 添い寝の距離感じゃん。


 今更目開けずれぇ……。


「あ、あれ? 起きてなかったら堕とせないじゃん」


 何をしようとしてたか全部声に出てる。


 堕とすってどういうことだ?

 あの芽愛ちゃんが自分からグイグイいくなんて想像もつかない。

 起きてたら俺、どうなってたんだろう……。


「……本当に寝てるのかな」


 芽愛ちゃんは服の上から心臓がある位置に手を当ててきた。


 心拍数で起きてるか確認するなんてずるい。

 とりあえず冷静にならないと。


「寝てるんだ」


 その声はしょんぼりしていてちょっとかわいそうだった。


 胸の上から手を離してくれて、ひとまず安心できる。


「寝てるなら何を言っても大丈夫だよね」


 ただの独り言だが。

 「よく聞いてて」と言ってるように聞こえる。


「付き合ってたとき一馬くんにずっとキツく当たっちゃってたけど、あのとき……好きだったの」


 言葉の意味が正反対なんだけど。


「好きだったのにキツく当たっちゃってたのは、もっと私のこと見てほしかったの」


 俺はあれだけ苦しかったのに。

 見てほしかったって意味不明すぎる。


「……言い訳にするつもりはないんだけど、私付き合うの初めてでさ。人を好きになるのも初めてでさ」


 付き合っていたときのことを思い出し後悔しているのか、その声は徐々に震えていってる。


「見てほしくても、キツく当たるのは間違ってたよね。一馬くんに何度も言われたのに、なんで見てくれてたから出た言葉だって気づかなかったんだろう……」


 最初、意味わからないことを言われて少し苛立ちを覚えたが。

 芽愛ちゃんが言うことは俺も悪い。

 やっぱり、聞いてくれなくても無理やり話し合いをするべきだった。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 家に謝りに来たときより声の震えがひどくなってる。


 俺たちお互い不器用すぎるな……。


 このままじゃ、どうにかなってしまいそうで心配だ。かと言って慰めるようなことをしたら、寝てるフリをしてる意味がないし。


 よしこうなったら。


「ひゃっ」


 寝相を装って抱きしめた。


 最初こそびっくりしてたが、徐々に落ち着きを戻し。少し経つと震えは止まり、芽愛ちゃんから寝息が聞こえてきた。


 勢いで抱きしめたけど、始めて二人っきりの夜を迎えたときのような心臓の音が聞こえる。


 芽愛ちゃんは寝れたけど、逆に俺が寝れる気しないな……。

 

 とりあえず今聞いたことは明日にでも深く考えることにしよう……。





【あとがき】

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