第3話 本心からの言葉

 付き合い始める前。 

 よく俺の家で二人で遊んだものだ。

 あの頃はただ仲が良い異性の友達として接していたこともあって、心の底から楽しかった。まぁ、付き合ってからも遊んだけどあれは……遊びというより、ただ俺の家でくつろいでただけだな。


 そんな思い出の場所でもある俺の家に、元カノの芽愛ちゃんがいる。

 それも、俺がいつも座ってる座布団の上に。

 まだ涙が収まっておらず、静かに泣いている。

 なにか飲み物でもあげたほうがいいのかな……。


 とりあえず麦茶を出そうかとコップに注いだが。


「おいし」


 芽愛ちゃんは俺がさっきまで飲んでいたアイスコーヒーを飲んでいた。


「…………」


 多分、用意されてたものだって思って飲んだんだよな。

 ……めちゃくちゃ複雑な気持ちだけど、飲んでしまったなら仕方ない。

 この麦茶は俺が飲むか。


 麦茶を飲み心を落ち着かせながら、芽愛ちゃんの対面に腰を下ろした。


 聞きたいことが山ほどある。


 アイスコーヒーをちびちび飲み、涙が収まり始めたのを見て。

 俺は少し音を立て、コップをテーブルの上においた。


「最初にも聞いたと思うんだけど、どうしたの?」


「……謝りに来た」 


 小さくつぶやき、頭を下げてきた。


「ごめんなさい」


「…………」


 なんて返せばいいんだろう。

 

 少なくとも、芽愛ちゃんは俺に謝って許しを求めているはずだ。

 もう別れているけど、それくらいはできる。


「わかった。謝ってくれてありがとう。……おかげで、気分良くなった」

 

「ほ、本当?」


「うん。俺、芽愛ちゃんに嘘ついたことないから」


 少し微笑むと、芽愛ちゃんは顔をそらした。

 まだ面と向かって喋るのは抵抗があるらしい。

 俺は最初苦しいと思ってたけど、こうやって謝られて逆に清々しい気持ちになってる。


 付き合ってた頃は色々あったけど。

 また普通に友達として付き合っていくのも、いいのかもしれない。

 

 そんなふうに一人、前向きな気持ちになっていると。


「あのさ」

 

 暗い顔の芽愛ちゃんが喋り始めた。


「実は……その、ずっとキツく当たってたっていう自覚はあったの。やめようとも思ってたんだけど、やめられなくて。……好きだから」


 数秒後に放たれた最後の言葉を聞いて耳を疑った。


「す、好きだから?」


「うん」


「…………」


 嘘を言ってるようには見えない。

 じゃあなんだ?

 俺は俺のことが好きでキツく当たってきてた彼女を、フッたってことか。

 …………腹を割って話し合いするべきだったな。

 

 復縁してカップル? 普通の友達? ただの知人?

 俺たちはこれからどうなるんだ。

 芽愛ちゃんは意外と奥手だし、そういうことを提案してくるとは思えない。


 なんか、よくわからなくて頭の整理がつかない。


「ちょっと横になるわ……」


「あ、うん」


 まだ起きて数時間しか経ってないけど、少し寝て起きたら考えよう。

 

「もし外に出たかったら鍵開けっぱのまま出て行っていいし、ここにいるんだったら好きにくつろいでていいよ」


「わかったよ……キッ……」

 

 なにかいいかけていたが、適当に頷き。

 芽愛ちゃんが謝りにきたことを頭から消し、ゆっくり目を閉じた。

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