第19話 お母さん
三連休初日の昼過ぎ。
宿泊用の荷物を詰め込んだリュックを背負い、船の待ち合わせ場所に着いたのだが。
そこには芽愛ちゃんに似た、母性の塊のようなオーラを放つ女性がいた。
「絶対芽愛ちゃんのお母さんでしょ」
間違いなくそうだと確信するほど、妹さんの侑愛さんみたいに似てる。
周りには芽愛ちゃんの姿は見えず、誰もいない。
あいさつをする絶好のチャンス。
だが、一度別れて復縁した女性のお母さんと二人で喋るなんて、ハードルが高すぎる。
ちょっと誰か来るまで隠れとこ……。
そんな俺の願いはすぐ砕けた。
「あら〜。あなたもしかして、娘の彼氏さんじゃない?」
芽愛ちゃんのお母さんにすぐ気づかれ、俺の前まで歩いてきた。
「ははは。こんにちは。三山一馬と申します。娘さんの芽愛さんとはとても仲良くさせて頂いて……」
「あーそういうのいいわよ。形式とか私嫌いなの。娘と付き合ってるのだから、もっとフランクに来てちょうだい」
「えっと……。芽愛ちゃんと付き合ってます」
「うん。よろしいっ」
あぁすごい笑顔が似てる。
初対面でどんなことを言われるかビクビクしてたけど、意外といい人っぽい。
「いないうちに聞こうと思ってたんだけど、うちの娘どう? 失礼なことしてないかしら」
「いえいえ。仲良くさせてもらってます」
「恋と人生の先輩として、なにかあったらいつでも相談乗るわよ」
「あ、ありがとうございます……」
芽愛ちゃんのお母さんが眩しく見える。
会う前まで、なにか企んでると思ってた自分が恥ずかしい。めちゃくちゃいい人だ。
こんなふうに頼れる大人って、憬れるなぁ〜。
「前娘に持たせたあのチョコ、どうだった?」
「あぁ……。あれ、アルコール入りだったらしくて芽愛ちゃんが暴走しちゃいました」
「あら。なにもしてないの?」
「?」
どういうことだ?
「恋の先輩からのアドバイスなんだけど、アルコールでガードが緩くなってたら、そこはグイッといくべきよ」
なにも企んでなくてただ頼れるいい人だと思ってたけど、前言撤回。
ちょっと前の憧れるなぁ〜って気持ちを返してくれ。
「あとそうね。今回、海の別荘で私と侑愛が帰ったら二人っきりになるからそこで男を魅せるのよ」
「つ、つまり?」
「グイッといっちゃいなさいグイッと。娘、最近大人ぶるようになったけどまだまだ子供よ。すぐ堕ちるわ。母親である私が保証する」
「わかり、ました」
グイッといくかいかないかは別にして。
二人っきりになったとき男を魅せるっていうのは、同じことを思ってた。
ただ海の別荘で遊ぶのではなく。
もうこの前の俺みたいに別れるという選択肢が浮かばないよう、しっかり心を掴みたい。
ちょうど話が終わり、決心したところで。
芽愛ちゃんが奥から走ってくるのが見えた。
「お母さん忘れてた帽子持ってきたよぉ〜って、一馬くんとお母さん……?」
「日差し強いから気をつけないといけないわ〜」
「ちょっとお母さん。一馬くんに変なこと言ってないよね?」
「変なことなんて言ったつもりないわよ」
「…………絶対言ったじゃん」
その後、少しして何も持ってないラフな格好の侑愛さんが到着し。
四人で船に乗り、海の別荘がある無人島へ向かった。
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