第28話 さよならは別れの言葉じゃなくて ④

『あのちょっと…人目もありますから……』

まるで私がいじめてるみたいじゃないですかと彼女に言われ、慌てて袖口で涙を拭った。


『こんな風に泣かれては困るので…』

日記は家で読んで欲しいと渡された。

『それと…これを………』

彼女は厚みの違う封筒を2つ、同時に俺の前に滑らせた。


中身を確認したらどちらも現金。それもかなりの金額だ。

『なんですか?これは!口止め料かなんかのつもりですか?』


さすがに語気を強めた。

『こんなもん貰わなくたって、誰にも君の母親が、投げ銭サイトで爆投げしてましたなんて喋りゃしないよ!』


彼女は少しだけ、たじろぐ様子を見せたが、すぐに真顔に戻ると顔を振った。


『とりあえず、これを渡すのが母からの遺言なので…受け取って貰わなければ、私が困ります』

チラッと見た封筒の中には、4~500万ぐらいの札束が見えた。


『とにかくこちらが母から、こちらがそれにかかる贈与税分です。』

そう言って2つの封筒を、更に俺の方へと滑らせた。

その事務的な物言いが無性に腹が立つ。


確かに最近は贅沢しなけりゃ食べてくぐらいのアイテムは飛ぶけど…それも傷病手当ありきの話だ。

そう遠くない内に傷病手当も打ち切りになるだろう…そんな俺にとって、目の前の札束は喉から手が出るほど魅力的だ。でも!



『悪いけど俺、乞食じゃねーから』


そう言って、テーブルに置かれたレシートを掴みかけた時、彼女の手が俺の手を掴んだ。


『話しはまだ終わってないわ』



メルモに似た顔でキッと睨まれたら従うしかない。俺は不貞腐れた顔で座り直した。


『さっきも言ったけど…コレを渡すのが私の役目なの。だから貴方が受け取った後、このお金を捨てようがどうしようが構わないの』

でも税金分だけは、きちんと納めて欲しいと付け加えた。


『それと…コレも……』

彼女はもう1度、トートバッグに手を入れると、そのポケットから皮の小さな巾着を取り出した。

『これを貴方に返すように頼まれました』


テーブルに置かれた紙ナプキンの束から、数枚をテーブルに広げて中身を出した。


銀色に光るロケット。

あの日メルモに渡した物だ。世界にひとつしかないから間違えようが無い。


『母は亡くなるまで…いえ、亡くなってもまだ握りしめていました』



『メル…モ………』

また涙が溢れてくる。

今度はメルモの娘がそっと、俺にハンカチを差し出した。

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