第25話 さよならは別れの言葉じゃなくて… ①

『は?』

そんな冗談笑えねーよ!そんな気持ちと裏腹に、メルモがそんな冗談を言う女じゃないって事を俺は知ってる。


すぐにLINE電話をかけてみる。

着信拒否されてるのか?こちらからの電話はすぐに不在着信に切り替わる。


仕方なく震える指でLINEを送る。

〚冗談だよね?〛

〚空港での事、怒ってるなら謝る〛

〚頼むから嘘だって言ってくれ!〛


メルモからの返信が来た。

〚冗談でも嘘でもありません〛

それと同時に2枚の画像が送ってきた。


1枚は葬儀場に置かれた【如月 恵 儀】と書かれた看板の写真。

もう1枚は祭壇に置かれたメルモの写真。

あの日、空港で撮ってもらったクリームソーダを前に微笑むメルモがそこにいた。俺のスマホの待ち受けにもなってる写真だ。


もちろん今の時代、画像の加工など簡単に出来ることぐらい分かってる。でもそこまでして嘘つく必要なんかない。


俺は慌ててメルモが亡くなった日を確認する。空港であった日の翌日だ。

すぐにスマホで検索をかける。

海外での飛行機事故とはいえ邦人が乗ってたなら大ニュースのはずだ。

でも該当する記事は1件もヒットしなかった。



まさか……

最近、自分の配信してるサイトでも課金トラブルに注意とか、爆投げ師に自殺されて行き詰まった配信者の話題もよく聞く。

確かにLINEには【入院加療中】とは書いてあるけど……以前、俺が入院中に運ばれた患者がいた。

自死による緊急搬送だったけど、間に合わなかったって事らしい。

あの時、確か『自殺では世間体が悪いから心不全って事にしますね』なんてやり取りを遺族と葬儀会社がしてたのを聞いた事がある。


まさか……

確かに最初から花火を投げてくれていた。

トットとの戦いの時もほぼ1人で投げていた。

それ以降、そこそこ投げてくれる人が増えても、彼女は変わらず投げていた。


俺はそれに甘えていたんだ………

情に厚いメルモが苦しんでたのも知らずに

勝手に好きになって、勝手に好かれてると勘違いして…

『そこらの色恋野郎と同じじゃねーか!!』


声にならない叫び声をあげながら、俺は部屋を飛び出した。目的地を決めていた訳じゃないけど、自然と足はそこに向かっていた。


近くにある神社の鳥居の前に立つ。

段数こそ100段に満たないが、急勾配の上に1段ずつが高い神殿に伸びる石段は、出世の石段と呼ばれているらしく、まだこの辺りに住み始めた頃に、何度か参拝やほうずき市に訪れた事もあった。


でも身体を悪くしてからは、俺はこの前を通るたび、いつか来るその日の為に石段を見上げていた。


医者からはスポーツはおろか仕事も、ましてや全力で走る事は禁止されていた。

『次に発作が起きたら、生命の保証はできかねます』

そう告げられたあの日から、頭の中にぼんやりあった計画。


生活出来ないレベルとはいえ、今の俺には傷病手当は命綱だ。

だがそれもすぐに終わりが来る。その時は、この石段を全速力で掛け上がろう!

それで逝ってしまっても構わない。

誰も泣く人なんかいない。

万が一、その場で死にそびれたとしても、倒れてりゃ誰にも気づかれない内に逝けるさ。



最近は毎日が楽しくて、そんな事を考えてた時があった事すら忘れていた。

でも………

俺は息を思いっきり吸い込むと、その石段を全速力で駆け上がった。


疲れて倒れ込んだ石畳に顔を押し付ける。

ヒンヤリした石の感触で、自分が死ねなかったのを確認した。

『何故だ…』

確かに息はあがっているし、呼吸も苦しくないと言えば嘘になる。

でも胸の痛みなんか全くなかった。


『俺には死ぬ権利もないのかよ!!』

そう叫んだ瞬間、スマホが震えた。

メルモの名義のLINEからのメール。



〚恐れ入りますが今日の昼ぐらいにお時間ありますか?〛

〚羽田空港の先日のカフェと言ったらお分かり頂けますか?そこで待っております〛

〚母から貴方に渡す様に言付かった物がありますのでお渡ししたいのですが〛

〚自己紹介が遅れましたが、私は如月恵の娘で如月來耶と申します〛



『母?え?メルモの娘?』

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