第26話 さよならは別れの言葉じゃなくて…②

モノレールの車窓に映る景色は同じなのに、あの日とは違って見える。

あの日はメルモが遠くに行く寂しさよりも、初めて彼女に会える高揚感が勝っていた。


でも今日は……

メルモの娘と名乗る人物との、対峙を控えている。もちろん、どんなに罵倒されても仕方ないって思ってる。

でもそんな事より、遺族に会って話しを聞いてしまったら、メルモが亡くなった事実を受け入れざるおえない……




指定されたカフェに着く。


『メルモ………?』

メルモ本人と見間違えるほど似てる。でもよく見ると、あの日に会ったメルモより血色の良い少しふっくらとした頬。


何も言えずに佇む俺の顔と、スマホを交互に見比べると、静かに立ち上がり会釈した。


小柄なメルモよりも、かなり背の高い彼女は、下げた頭を上げた瞬間、俺をキッとした目で見つめた。


その目ヂカラに萎縮している俺を一瞥(べつ)すると、手をすっと前に出して対面側に座るように促した。



『すいません。アイスコーヒーをふたつ』


運ばれたアイスコーヒーに、口をつけることもできず、ただ項垂れている俺の前に彼女が1枚の名刺を差し出した。

【○○株式会社 秘書課 如月 來耶(らいや)】


『ライヤー……さん……?』

受け取った名刺を見ながらそう尋ねると、彼女の眉がキュッと上がった。


『伸ばさないでくれます?らいやです。らいやーって伸ばしたら嘘つきって意味になっちゃいますから!』


『す、すみません……』

慌てて謝る俺の事をチラッと見て、軽く咳払いをした。


『まぁ付けたのは母なんで…貴方に言っても仕方ない事なんですけどね』

学生時代によく名前でからかわれたので、少しコンプレックスなのだと彼女は言った。



『さて、本題に移りましょう』

そう言うと彼女は、横に置いていた大き目のトートバッグに手を入れると、パタパタとテーブルの上にノートや、3つの封筒を置いた。


『お渡しする前に、1つお願いがあります』

そう言って彼女は俺をキッと睨んだ。


どんな罵詈雑言でも受け入れるつもりだったけど、実際にメルモに似た顔で睨まれると、意気消沈してしまう。


『そんなに難しいお願いではありません』

『実は…父は母が配信サイトなるものに、出入りしていた事を知りません。ましてアイドルに夢中になる様に貴方に夢中になっていた事も……だから間違っても父の耳には入れない様にお願いします』

俺は黙って頷いた。当たり前だ。言えるはずなんてない……。


『では…』

そう言った彼女の言葉を俺は遮った。

『あの…なんでもっと俺を責めないんですか?知らなかったとはいえ、俺が無理させたせいで…メルモは…いや貴女のお母さんは…自ら命を……』


溢れる涙を拭おうと顔を上げる。目の前にはポカーンとした顔で彼女が俺を見ている。


『あの…なにか勘違いしている様ですが、母は末期の子宮ガンで、ずっと入院中だったんですけど……』

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