第17話 裏切りの街角 ①

実際には5分にも満たなかっただろうけど俺には1時間にも感じたコメント欄の沈黙を破ったのはモルだった。


『ねぇ、それってレオくん悪くなくない?』

それをキッカケにして一斉にコメントが流れ始めた。

『たしかに詰めが甘いとこは否めないけど』

『まぁ…男ってのはさぁ〜』


俺を擁護してくれるコメントはありがたかったけど…でもそうじゃないんだ。


『ありがとう。でも悪いのは俺なんだ』

『俺ってきっと心の一部分…感情のどこかが欠落してるのかも知れない』


『でも……』

そう言うピノコのコメントを遮るように俺は語り始めた。

『メルモには前に話した事はあるけどみんなには初めてだと思う』

そう前置きして、俺は以前メルモに語った生い立ちについて簡単に聞かせた。そして…


『この先の話は誰にもしたことない話だ。少し長くなるけど聞いてくれないか?』

俺は自動延長をONにした。途中で枠が切れないように。


俺が居た児童養護施設、まぁ簡単に言ったら孤児院だな。そこでの生活は楽しかったよ。

ただ外の世界は必ずしもそうじゃなかった。


今どき差別なんて無いと思うだろ?もちろん表立ってはしないさ。でも……


俺が高校に入学してしばらくすると何故か俺の周りには女子が集まるようになったんだ。

決して自慢してるわけじゃない。

ほら、あの年頃って顔もそこそこ頭もそこそこ、でもスポーツが得意な男子ってモテがちだろ?まぁそんな感じだったんだ。

そんな時に告白されて何人かとも付き合ってみたりしたけど、誰ひとり長くは続かなかったんだ。

理由は簡単。

当時学生だからデートなんかいわゆるお家デートが多いんだけど、しばらくして彼女の家に遊びに行くだろ?

最初こそもてなしてくれるけど相手の親から親の職業とか住んでる地域とか聞かれた時に孤児院に住んでるって言った瞬間、顔色が変わるんだ。

そして翌日から彼女からの連絡無くなるんだよ。分かりやすいだろ?


まぁ中には親に反抗してなんて強気な子もいなかった訳じゃないけど小遣い貰えないとかされたら簡単に親に服従しちゃうしね。


もちろん振られたのは悲しかったけど…でも学生時代の恋愛なんかは3日も凹んだら忘れるもんさ。理不尽さは感じてはいたけど……


高校を卒業した俺は市内の工務店に就職したのを機に、児童養護施設を出て一人暮らしをはじめたんだ。


家族経営に毛の生えた様な工務店だったから一人暮らしの俺に何くれとなく世話を焼いてくれる社長一家。

毎晩の様に仕事帰りに飯に誘われ社長からも『お前が息子だったらなぁ』って言われたらそりゃ勘違いもするよ。だからって訳じゃないけど社長の一人娘と恋に落ちるには時間はかからなかった。


ある日、彼女の部屋の布団に一緒にいる所を見つかって俺は思いっきり殴られた。

もちろん真剣に付き合ってきたって事も将来の事も考えてるって事はきちんと伝えた。


でも聞いちゃくれない。

『飼い犬に手を噛まれた』だの『可哀想だと思って優しくしてやりゃつけ上がりやがって』だの…でも『孤児院育ちのくせに』って言葉にカッとなった俺は社長を殴りつけ家を飛び出した。


元々たいした荷物があったわけじゃない。それでも少しの服とわずかな現金。身の回りの物をカバンに突っ込んで部屋を出た。


元々会社の借り上げアパートだから後のことは知っちゃいない。

でもケジメだけはと封筒に保険証とか退職届とかを入れて、夜が開けたのを見計らって社長んちの郵便受けに放り込む。


まだ始発も来てない最寄り駅のベンチに座り彼女に立て続けにメールを送った。


〚俺は思い切って今日、東京に行く〛

〚12時30分の電車に乗るつもりだ〛

〚駅の一つだけある赤いベンチで待ってる〛

〚家を出るのは難しいかもしれないけど〛

〚俺と一緒に行こう〛



時間が来ても彼女は来なかった。

それでも『もしかしたら』と何本もの電車を見送って………

その日の最終電車に乗り込んだ。1人で…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る