第20話 よろしく哀愁 ①
アヤコが去った後、しばらくの沈黙を経てモルのコメントが流れる。
『ふぅ(*´・ω・`)=3』
『なんというか…前の投げ方と似た感じね』
言われてみれば確かにそうだ。
パッと来てババッと投げて、みんなを煽りまくってまた投げて、言いたいこと言っておちゃらけて帰っていく。
『アイツはアイツで、色々な思いはあったんだろうな』
『でも……』とトビ男が書き込む。
『なんか暴露枠とか言ってたけど…レオくん大丈夫?』
確かにトビ男の心配はもっともだ。でもそれをダンが打ち消した。
『アヤコの最後の言葉覚えてるか?』
『Adios Amigos スペイン語でサラバ相棒って意味だよ』
『わざわざ相棒を傷つけはしないだろ?』
『@1でーす』
ピノコのカウントが入りみんなが『お疲れ様』『(*>∀<)ノ))またねー』と枠から落ちていく中、メルモからのコメントが無いまま時間切れで枠が閉じた。
翌日になり俺はアヤコの枠を開いた。初配信としては異例の同時視聴1000人越え。
それもそのはず、ちゃっかり少し前の時間に自分からツギツギの枠で宣伝してたらしい。
俺が枠に入ってもほとんどの人が気づかないほど溢れかえったコメ欄。誰もが目の前に映し出されたアヤコ…いや奇子が口を開くのを待っていた。
『最初に私の話を聞いていただいてから質問にはお答えしたいと思います』
そう言って前を向いた奇子は、会った時より少し痩せて…でも凛とした美しさを放っていた。
『まず私とレオ氏との事で皆さんの誤解をときたいと思ってます』
そう言うとアヤコは俺との事は全て自分から誘っただけで、言われているような色恋営業は1度も無かったと言い切った。だから今後俺への誹謗中傷はやめて頂きたいとまで。
『では私に色恋営業仕掛けた挙句に結婚詐欺まで働いた男を紹介します』
そう言ってアヤコが手にしたフリップには美味そうな朝食の写真と【ハムエッグ】ってハンドルネームが添えられている。
コメント欄には〚誰?〛って文字が並んだ。
アヤコによるとかなり下のランクの配信者らしい。
そんなまったりとした中でハムエッグは、いつしかアヤコの心を掴んでいったという。
それがいつの間にか欲しリスになり、PayPayになり、口座にまとまった金額を振り込むまでには、それなりの関係もあったという。
『正直、結婚するんだから記念にと口に出せないような写真を撮られたのは大きかった』と涙をこぼしながら訴える彼女に女性リスナーが花火を投げまくる。
もちろん写真を使って脅されたりしてはいないけど断りづらい状況にはあったらしい。
でもある日、彼のスマホのサイトの閲覧履歴から、とある女性配信者への爆投げが発覚して…
その女性配信者とハムエッグとのLINE履歴から2人が結託して自分を罠にはめた事を悟ったアヤコは、直接振り込んだ金は裁判で、それ以外は配信でやり返す事に決めたらしい。
『頑張れよ』
そうコメントして俺は枠を降りた。
その夜、俺の枠ではアヤコの影響からか、たくさんのリスナーがやってきた。
『やっぱりレオくんは悪くないって私は信じてたもん』
そう言って帰ってくるリスナーに苦笑しながらも俺はメルモが枠に居ないか探していた。
その翌日もメルモの姿は無かった。
でも2日ぶりにメルモは帰ってきた。
『ちゃんとご飯食べたの?』
そう何事も無かったかのように……
アヤコの告白や俺の過去の話しに気を悪くしてもう推し変されたのかと思っていた。
『なんだよ!心配したじゃんか』
そう言って唇を尖らせた俺にメルモがあっけらかんと答えた。
『ごめんごめん💦単身赴任先から夫が急に帰ってきたちゃって(´>∀<`)ゝ』
その言葉に胸が締め付けられた。
そしてこれは、決して病気のせいじゃないことは自分でも分かっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます