第19話 裏切りの街角 ③
『え?誰?』
そう思った瞬間、名称未設定は退出し代わりに奇子が入ってきた。
『驚かせたわね。実はさっきの名称未設定は私のサブ垢なの』
『今までの話は潜って聞かせて貰ったわ』
『ぅん………』
声にならない声でそう言った俺に構わず、奇子が続ける。
『あのね…残念ながら私はもうこの枠には戻らないわよ』
それに対してピノコのコメントが飛んだ。
『あの、もし私との事で気を悪くしてるなら気にしないで。私もアヤコさんの言ってた事分かるぐらい成長したから!』
『そんな事でこの枠に戻らないんじゃないの。私、明日から配信始めるのよ(*´艸`)』
『あと裁判も控えてるしねw』
『えっ?』
奇子…いやアヤコの話はこうだった。
俺との事が表沙汰になってから彼女のTwitterのDMは大変な事になったらしい。
もちろん誹謗中傷もあったけど、それ以上に多かったのはいわゆる色恋営業ってやつだ。
『僕ならもっと大事にしますから後押しして下さい』とか…
ウンザリしてDMをクローズしようとした時、一通のDMが目についた。
『色々大変でしたね。良かったらアカウントを作り直して、まったりとした枠作りのお手伝いしてくれませんか?もちろん爆投げは不要です』
そのDMに心が揺らいだとアヤコは言った。
『正直、アカウントを作り直すのには抵抗が無かったわけじゃない。ファンレベルMAXはレオと一緒に戦った歴史でもあったから』
『でもさっきレオが言ってたでしょ?イベントで戦って勝つより安らげる場所が欲しかったって……』
毎日毎日、どうしたらイベントを勝ち抜けるか?ライバルとの点差はどうなのか?弾の補充はどれだけか?
『正直、配信を楽しめる感じじゃなかったから彼の言う、まったりした枠作りって言葉に惹かれてしまったの。疲れてたのかもね』
その配信者の言葉を信じてアカウントをアヤコから本名の奇子に戻し、アイコンもマーガレットの花の写真に変え彼女は楽しいリスナー生活を送るはずだったらしい。
『でも楽しかったのは最初の1ヶ月ぐらいだったかな』
それでもアヤコは彼のために多少のアイテムを投げたりはしてたらしいんだけど、それを彼は咎めたと言う。
『運営に半分以上取られるのは勿体ないから、その分欲しリスでくれよ』
その言葉に違和感が無かった訳じゃない。
とは言え欲しリス…いわゆる欲しい物リストは大半の配信者がプロフィール欄やTwitterに載せている。
アヤコは言われるがまま彼のために欲しリスを送り続けた。
沈黙するコメント欄は固唾を飲んでアヤコの次の言葉を待ってる様だった。しかし……
『とまぁ、予告編はこれぐらいでw』
『残りは明日のお昼に暴露枠するから、みんな見に来てね〜』
『これからは暴露系配信者・奇子として頑張るから。フォロー・通知は御自由に✌️』
立て続けに流れるコメントを打ち込んだ後、それでもアヤコは最後におどけて言った。
『じゃあサヨナラは言わないよ!アディオス・アミーゴ』と………
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