第4話 帰り道 ①
俺は差し出された手を掴んだ。
とはいえ実際にいるわけじゃないから俺の指は虚を掴んだだけだったし、その姿も既に消えていたけれど……
『何だったんだ?デジャブ?』
この光景にはうっすらと記憶がある。あれは小学校3年生の時だ。
心臓の悪かった母が逝ったあとしばらくして父も過労で呆気なく逝った。
父の葬儀を手配してくれた親戚は苦々しい顔で〚ウチにはお前を引き取る余裕はない〛みたいな事を言って去っていった。
それからの事はよく覚えてないけど児童相談所の待合室で膝を抱えて座ってた俺に手を差し伸べた人がいた。〚さぁ行きましょう〛と。
教会の中にある児童養護施設。そこのシスターが手を差し伸べてくれたのだ。
『まさか…メルモはあの時のシスター?』
まさかねと俺は笑いながら頭を振った。俺を迎えに来た時点で60過ぎのシスターは今生きてても80過ぎだろ。スマホすら使えるかどうか怪しいもんだ。
それからも毎日彼女はやって来た。
他愛もない会話。でもそれが楽しい。
配信を楽しいと感じるのはどれぐらいぶりだろう。あの頃はいかにアイテムを引き出させるか、1位との差はどれくらいかとか、そんな事ばかり考えてた様な気がする。
そっか…俺がやりたかったのはこんな感じの雑談枠だったな。そう思った時に同時に2人が入室してきた。
懐かしい名前とアイコン。
かつてのフォロワー2人だった。
『おかえり!モルそしてピノコも』
俺が配信始めた時に自分自身で決めた3つのルールがある。まだ若葉マークがついていた頃からそれだけは守ってきた。
ひとつはたとえ離れたり喧嘩別れしたリスナーに対しても戻ってきた時は必ず笑顔で受け入れる事。逆にどんなに太客だって去るものは追わない事。
そして2つ目はリスナーの年齢を聞かない事。
理由は単純。出会い厨と思われたくないから。たまにいるだろ?若いリスナーとやたらと繋がりたがるヤツ。気持ちわりぃ…
そして何よりこの枠にいる間は年齢関係なく平等でいて欲しい。とはいえ会話の中で何となく年齢を察する事はある。アニメやドラマの話題なんかは特にね。だからこそ俺は基本は呼び捨てだ。あきらかに俺の母親ぐらいだろうと思っても。
最後の1つはリスナーには絶対、恋愛感情は持たない事。
俺はそれを守ってきたはずなのに…それがかえって拗らせる事に………
そんな事を考えながら帰ってきた2人に『久しぶりだね〜元気だった?』と声をかける。
その声に勇気づけられたのか2人のコメントがほぼ同時に流れた。
『ねーねーレオくん!聞いてよ💦』
『元気なんかじゃないよ😭やっぱり私はレオじゃなきゃ』と……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます