第3話 出会いはスローモーション ③

配信始めてまだ間がない頃から俺には固定リスナーが沢山ついていた。いわゆるガチ勢ってやつだ。

飛び交うアイテムに流れるキラコメ…

最初こそなんでこんなトークスキルもない俺に?って思ったりしてたけど、ランキングの常連になる頃には気にもしなくなっていた。

でも当時天狗になっていた俺は周りが見えていなかった。所謂、ガチ勢と無課金勢との水面下での足の蹴り合いに……


確かに愚痴っぽいDMは何人かから来ていたのは分かって居た。それぞれがそれぞれの言い分を俺にぶつけて来る。

ガチ勢からは 〚なんで投げてる私よりあんなかまちょ連中を優先するのよ〛とか〚イベラスに恋愛相談なんかぶち込んで来るの辞めさせてよ〛とか。

無課金勢は無課金勢で〚コメントだって応援なのになんであの人たちに煽られなきゃいけないの?〛とか〚投げられない事情だってあるのに上から言われた〛だの。

正直、めんどくせぇって思っていたから基本放置していたんだ。


そんな事を話している間も彼女は『ウンウン』とか『(´・Д・)ソウカ・・・』とかちゃんと聞いてるよってコメントで返してくれる。


その矢先にあの事件は起きたんだ。

この世界は広いようで狭い。

あっという間に噂は広まり匿名掲示板にすら名前が書かれる様になった。

元々、一足飛びでトップにまで昇ってきた俺を苦々しく思ってた配信者もたくさんいたんだろう。

ガチ勢もかまちょも居なくなったコメント欄はアンチからの誹謗中傷で埋まっていった。


『イチイチうるせぇよ』

そう言い残し俺は配信の世界から去った。

別に俺には本業もあったから遊ぶ為だけに使える金が無くなったって困りはしないさ。


だが悪い時には悪い事は重なるもんだ。

仕事中に襲った突然の胸の激痛…


運ばれた病院で告げられた病名は

【肥大型心筋症】

『ご両親に心臓の病気はありませんか?』

母親が心臓の病気だった事はうっすらと覚えてるけど俺は今まで健康だったしスポーツだって得意だった。実際、今も肉体労働だけど誰よりもよく動くと上司からの覚えもめでたいぐらいだから……


しばらくの入院のあと、休職を余儀なくされた俺は部屋にポツンと座り込んだ。

『どうすりゃいいんだ』

基本給より残業手当が上回る様な仕事だから傷病手当は家賃と光熱費で無くなる。

手元に残ってた僅かな貯金が底をつくまでにたいした時間はかからなかった。


最後の望みをかけて俺はスマホを開いた。

それが3日前の事だ。

たまにチラ見したりするヤツがいるのは閲覧数で確認出来たけど誰もアンチコメントすらしない。もっともアンチに言い返すだけの力も水だけの暮らしの自分には無理だろう。


『そんな時にメルモちゃんが来てくれて本当に嬉しかったんだ』

『そうだった( ´艸`)良かった』

そんなコメントと同時に続けざまに花火が上がる。俺は慌てて彼女を止めた。

『違う違う💦』

『決してこじりたくてこんな話をした訳じゃない』

『投げてくれるのは嬉しいけど…それより話したかったんだよ。誰かと……』


コメント欄には『うん。分かった😊』

そして『一緒に行きましょう』と……


その瞬間……

目の前にはスマホと文字列しかないハズなのに俺にはハッキリ見えたんだ。

アイコンのアニメキャラの女の子が俺に手を差し伸べる姿が………

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