第12話 ラッキーチャンスを逃がさないで ③

ついに迎えた最終日。

それでもメルモの枠への入り方はいつもと変わらない。

『こんばんは。ご飯食べた?』

『こんな日までオカンかよ』

『ママって呼んでいいよ』


今日はリクエストに答えてカラオケ配信だ。

飛び交う弾幕の合間合間に無料有料混ざったアイテムが飛ぶ。

かつてリスナーだった懐かしい顔もチラホラやってきて投げてくれる。


トビ男のリクエストしたエロゲの主題歌の中のセリフをできる限りの可愛い声でシナを作って言ってみた。

『そんなに捻ったら壊れちゃう♡』

コメ欄が『www』と『🤢🤮』と『₹ ₺』で埋め尽くされた頃、俺はついにトットを追い抜いた。


そしてついにラストソングを迎えた。

情感込めて歌ったMissingにみんなが『超かっこいい♡』とか『イケボ😍』とか送ってくれていた。


メルモの反応が気になって仕方ない。しばらく反応が無かったメルモからのコメントは絵文字たったひとつ『(´இωஇ`)』

この絵文字をどう解釈するかは悩んだけど少なくとも多少は俺の気持ちは伝わっただろう。

とはいえ今後も進展の無い関係には変わりはないけれど……


そんな事を考えている内にカラオケタイムは終了して、あとは雑談しながらの最後の追い込みだ。


『たぶん大丈夫だと思う。でも……』

『今のアイツにコレだけの投げ師居たかなぁ?🤔』

モルのコメントが立て続けに走る。

『まぁ、それは分かんないなぁ…ウチだってメルモって守護神が来たんだから』


そうこう言ってるうちにトットがついに逆転し始めた。

慌ててメルモがシャンパンを投げる。

俺が1位になる。直ぐにトットが逆転する。


ラスト5分前!メルモが投げたシャンパンが20倍を引き当てた。

『やったぁ!』

『✨👏✨👏✨👏✨👏✨👏✨』

俺も勝利を確信したその時…

『レオくん!あっちでも🍾で20倍出た!しかも2個投げで…』


偵察に行っていたトビ男のコメントに全員が息を飲んだ。その時……

『サーバーが重くてアイテム購入画面に行けない!!』

メルモから悲鳴が聞こえそうなコメントが飛ぶ。

『メルモちゃん😭もう無理しないで』

絵文字だけでなく実際に泣いているだろうモルの叫びがコメ欄を走る。

『@1!』『@秒』

こっちも泣いているだろうピノコがカウントする。


イベントの集計も終わりトット1位、俺が2位という結果に終わった。


『みんなありがとうございました』

俺は画面の向こうのみんなに頭を下げた。

『敵に負けた事は正直悔しいけど正直、1週間前の俺では考えられない結果を残せました。これもリスナーみんなのおかげです。今回のイベントを俺は一生忘れないと思う。本当にありがとう』

コメント欄は『👏🏻( ᵒ̴̶̷̤‧̫ ᵒ̴̶̷̤ )』の絵文字と『お疲れ様』の文字で溢れかえった。


それから数日は雑談枠って感じでのんびりとした配信をしていた。

最近はピノコに好きな人が出来たらしくもっぱらピノコの惚気話を聞いたり、それをみんなでからかったり…まったりとした雰囲気の中で枠を進めていた。


『レオくん!大変!!』

入室しましたの表示より早くモルのコメントが走った。

『今すぐイベント確定順位見て!』

慌ててお知らせ欄をタップする。


『え?どういう事?俺が1位になってる!!』

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