メルモのお薬
恭梨 光
第1話 出会いはスローモーション ①
なぁ…聴いてくれるか?
俺が本気で愛した女の話を……
当時、俺はどん底に居た。
歩いても歩いても先に光も見えない真っ暗なトンネルを想像して貰えばわかるかな?
とにかくそんな感じの中、独りで膝を抱えてスマホを握りしめていた。
〚はじめまして。こんにちは〛
コメントの読み上げに顔を上げる。
可愛いアニメのアイコンの横にはメルモ(初見)の文字。少しでも明るい声で語りかけた。
『はじめましてメルモちゃん!良かったら仲良くしてね』
それが彼女との出会いだったんだ。
すぐに彼女のアイコンをタップしてプロフィールを確認する。実にあっさりしたプロフィール。誕生日も地域も無く性別が女性だということと【リス専です】とだけ書いてある
。
俺は自分が持てるだけの甘い声で話しかけた。
『ねぇ今、暇?ご覧の通りの過疎枠だから良かったら少し付き合ってよ』
〚いいよ〛
そう言ってコメント欄は彼女の打つ文字で埋まっていった。好きな音楽の話からドラマの話。このサイトでのリスナー歴などこちらからの質問にも淀みなく答えてくれる。
最近は韓流にハマっているとか音楽もBTSからEXILEまで。でも意外にアニメにも詳しいとか…リスナー歴は半年だとも言っていた。
話しが今日のランチメニューの話題に移った時、俺の腹が(グーー)っと大きな音をたてた。
〚お腹空いてるの?お昼ご飯まだ?〛
実はもう3日も水しか口にしてない。
このサイトにはいわゆる古事記配信者が沢山いる。
【家賃が払えません】だの【携帯代が払えません】だのをサムネにデカデカと書いた配信者だらけだ。
実際そいつらが本当に生活に困ってるかは知らないけど俺にだってプライドがある。そんな奴らと同じと思われたくない。
『いや〜今ダイエットしててさ』
〚そっか〜でも私はたくさん食べる男子が好きだな〛
そのコメントに続いて花火がスマホ画面を覆う。
〚無理なダイエットは良くないよ。これでマックでも買って食べてね〛
俺の強がりなんかお見通しと言わんばかりに2発目の花火が上がる。
俺は堪えきれずに嗚咽を漏らした。
〚じゃあ、私はそろそろ行くわね〛
〚これからも頑張ってね〛
そう言って去ろうとする彼女のアイコンに向かって俺は叫んだ。
『あの…明日も俺、この時間枠開けてるから!フォローを…いや通知だけでも』
その瞬間画面上に文字が映し出された。
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