第22話 よろしく哀愁 ③
翌日、枠を開くと同時に【メルモさんが入室しました】の文字にホッとする。
『こんばんは。ちゃんとご飯食べた?』
『うっせーよ!今から作るんじゃん』
『そうじゃなくて昼食よ』
『食ったよ!カップ麺だけどさ。つーかやっぱり今日もオカンかよ』
『お利口さんねwママって呼んでいいわよ』
いつものやり取り。でも俺の胸がチリチリするのはなんでなんだろう?
とりあえず料理配信がスタートした。
最近は料理出来る男性が女性に受けるらしく閲覧数も順調に伸びていく。
温めたフライパンにカット野菜を入れた途端に、コメント欄は『違う違う!』『一旦皿に戻せ』『肉から先!!』なんて指導が入る。
豚コマを焼いて一旦取り出し、肉から出た油で野菜を炒め、そこに肉を戻し焼肉のタレで味をつけて出来上がり。
出来上がった野菜炒めにインスタント味噌汁、レンチンご飯で手作りって言っていいのか自分でも多少疑問に思わなくは無いけど、初めてにしちゃまぁ何とかなったかな……
『じゃあいただきまーす』
そう言って1番デカい肉を画面に近づける。
『こんな時間に飯テロかよ』ってコメントに笑いながら平らげていく。
『みんなの今日の夕飯は?』
『カレー🍛』だの『パスタ食べたよΨ( 'ч' ☆)』だの、イツメンもそれ以外の人も一斉にコメントを飛ばす。でも……
『アレ?メルモは?何食ったの?』
反応の無いメルモに話を振ってみた。
『あ〜今日は食べてない』
『はぁ?いつも俺に飯食ったか聞いといて自分はダイエットかよ』
そう言った俺におどけた調子で返す。
『┏○)) サ━━━━━━━━セン!』
『あ、でもキャンディは食べたよ』
俺は馬鹿だ。
その時に気づくべきだったのに……
その企画以降、少しづつリスナーも増えてきて全てが順調に思えていた。
ただ2日に1回ペースでメルモが枠に来ない日があるのだけが気がかりだった。
もちろん聞いてみたこともあったけど『ちょっとバタバタしてて💦』って返ってくるだけだった。
枠が終わった夜……
考えたら俺ってメルモの事をほとんど知らないんだよなぁ……
近くにあったメモに書き出してみた。
専業主婦としか書かれてないプロフ。フォローもフォロワーも俺だけ。モルたちとの会話から最近、単身赴任から戻った商社勤務の旦那と二人暮し……
【旦那】って文字にまた胸がチリチリする。
『イチャついてんじゃねーよ!!』
思わず出た自分の言葉に自分で驚く。何言ってんだ俺は……
相手は人妻だぞ!そう言いながらもメモの旦那って文字を黒く塗りつぶした。
翌日、ポストに中学時代の友人から1枚のハガキが届いていた。
【結婚しました】の文字の下にニヤける友人と可愛い新婦の写真。
そう言えばコイツ結婚できないって言ってたクセにな……
『夜中にトイレに起きたら両親のしてるトコ見ちゃってさぁ…なんか母親の女の顔みたら気持ち悪くってトイレでゲロっちゃたよ』
『アレ見たらもう結婚できないかもな俺』
そんな友人の言葉をふと思い出した時、先日の吐き気の原因が分かった気がした。
うん!オカンぶってるメルモをいつの間にか自分の母親とダブらせてたんだなぁ…
メルモは俺のオカンだ。そう思おう。
決して愛だの恋だのじゃない。
いやいや、それ以前にリスナーじゃないか。
絶対に好きになったりしない!
その夜も和やかに枠が進んでいた。
その時……
『実は…レオくんにも、みんなにも伝えたい事があるの』
突然のメルモからコメントに一斉に流れていたコメントが止まる。
『実は夫の転勤で私、明日からドバイに行く事になったの』
俺の鼓動が早くなった。
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