NWO〜女暗殺者と女騎士が往くVRMMO暗殺録〜
芳田紡
プロローグ
——New World Online、通称NWO。
新しい現実を、というコンセプトで発表されたこのタイトルは、そのコンセプトの期待を裏切ることがないグラフィックや五感の精度から一躍有名となった。
これまでのVR関連ソフトとは一線を画すリアリティを誇っており、医療、軍事などの各分野で世界中から注目を集めている。
あまりの人気に、100万本を販売したのにも関わらず、初回のゲームソフトの販売では国内外から大量の希望者が現れ、なんと約50倍の狭き門を突破しなければ手に入らないという事態に陥った。
さて、そんなよほど運がないと手に入らないようなゲームソフトを、とある日本の女子大生は、幼馴染と共に見事抽選に当たり手に入りた。
その女子大生の名前は、松浦(まつうら)紗良(さら)——いや、シャルロットという。
*
青い空、白い雲、穏やかな風が草木をのんびりと揺らし、花の匂いが鼻腔をくすぐる。
…なんて景色が恋しいような、空は見えない、薄暗い、草木はないし死臭がする洞窟にシャルロットとリシアの二人はいた。
そんな環境だけならまだしも、二人の視界にはとてもじゃないが近づきたくないほど禍々しいオーラを放つ異常に大きな狼と、その狼を守るように囲んで立つ三匹の少し大きな狼がいる。
「リシア、行くわよ」
「はーい。いつでもどうぞ」
シャルロットはまるでコンビニから出ていくかのような軽い口調で戦闘開始を告げる。
すると、シャルロットの気配が限りなく薄くなる。
現実世界では若くして剣道四段の実力者であるリシアでも、気配のかけらも感じられないほどに。
しかし、リシアをそれを気にした様子はなく、腰にくくりつけてある鞘からロングソードを抜き、両手で構える。
「さ、かかってきなさい」
狼たちはその言葉を理解しているのか、耳に入るとすぐに行動を開始する。
まずは三匹の狼が。
先頭の狼はリシアに向かって直線的に走り、他の二匹は左右からリシアを挟み込む形になるよう移動する。
先頭の狼がリシアと接敵、リシアの頭に向かって飛びかかる。
「ちょっと遅いかなあ」
リシアはそう呟くと、芸術的にすら思える形の突きで狼の首を貫く。
右側の狼がすぐ近くまで寄ってきているので、ロングソードに刺さった狼を蹴飛ばして抜き、足をつくと同時に腰から上半身を回す。
それに追いつく形で半円を描いたロングソードの先端が、狼の首を跳ね飛ばした。
最後の狼を処理しようとリシアが後ろを振り向くと、すでに首が切られて息絶えた死体があった。
「シャルロット、ナイス!」
死体の影からシャルロットが出てくる。
手には血塗れのダガーが握られていた。
「ええ。さて、次はあのデカブツよ」
「うん、さっさとやっちゃおう」
二人はようやく動き出した大きな狼と向かい合う。
シャルロットが先ほどと同様に姿を消した瞬間、狼が吠える。
「アオォォォン!」
すると、狼の周囲に紫色の魔法陣がいくつも浮かび上がってきた。
今度はリシアが口を開く。
「『纏』」
すると、ロングソードが青色のオーラを纏った。
紫色の魔法陣が回転し、禍々しいオーラを纏った黒い槍が現れる。
その槍は中々の速度でリシアに飛来する。
リシアは槍の飛んでくる軌道を一瞬確認すると、半歩左にズレる。
すると、ほとんどの槍がリシアのもといた場所の地面とその周囲に突き刺さっている。
残った槍は二本、両方ともリシアに向かって直線的に飛んでいる。
先の一本目を袈裟斬りで真っ二つに切り落とし、二本目は逆袈裟で真っ二つ。
槍という細い武器を連続して真っ二つにできる技量は相当に珍しいだろう。
二本の槍を切り落としたリシアのロングソードのオーラは、槍と同じく禍々しいものに変化している。
今度は、脇構えの状態で、鎧を身に纏っているとは思えないほどの速度で駆け出し、すぐに狼の眼前へと辿り着いた。
「オォォン!」
「っ!」
普通の狼とは違う、発達した狼爪と、リシアのロングソードが交わる。
狼爪が切れることはなかったが、リシアの方が力が上であったようで狼が大きくよろけた。
その瞬間、狼の首の真下にシャルロットが現れる。
「『夜帳』」
小さくそう呟くと、真っ黒に染まったダガーを狼の隙だらけな首に差し込んだ。
その一撃だけで、狼は巨大な体躯を地に着けた。
《[シャルロット]の種族、職業、武器LVが上昇しました》
《[リシア]の種族、職業、武器LVが上昇しました》
貴女は、夜の帳を下ろす者。
黄昏時の夕の空を黒く染め、月の照らす夜を待ち侘びる、その魂の名前を————
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