デート(2)

 二人はアクセサリー店から出ると、再び街を歩き出した。


 現在時刻は7時を回ったところで、ゲーム内でも日が傾いてきている。


 それほど高い建物のないこの街を、沈みゆく日がよく見え、橙色の光が街を包んでいた。


 そんな穏やかで少し切ない街を歩きながらシャルロットは——


(手…繋ぎたい…)


——リシアの手しか見ていなかった。


 アクセサリー店に入るまでは、最初にシャルロットが腕を引いた時の流れのままに手を繋いで歩いていたのだが、店から出てから繋ぐタイミングを失ってしまったのだ。


 だからと言って、「手を繋いで」と頼むのは忍びないのか、直接言うことはできないらしい。


(…けれど、何も言わないと歩くだけで終わってしまいそうね)


 あと少ししたら流石にログアウトしなければならない時間だ。


 もう言ってしまおうかとシャルロットが考えたその時。


 シャルロットの指に、温かく柔らかいものが絡められた。

 リシアの指だ。


「…嫌じゃなければ、手繋ぎたいな〜…って」


 どうやら、リシアもシャルロットと似たようなことを考えていたらしい。

 その結果が手を繋いでから許可を取ると言うなかなか無理矢理な方法だったが、シャルロット相手なので当然のように成功する。


「ふふふ。嫌じゃなければって、もう繋いでるじゃない」


 シャルロット普段はあまり見せることはない満面の笑みでリシアの発言を指摘する。


 そうして、手を繋いだまま少しでも街を回ろうと足を動かした瞬間であった。


「ちっ…おいてめーら」


 そこまで幅のない道をズカズカと歩くガタイのいい男に二人が声をかけられる。

 その男は見るからに不機嫌そうで、シャルロットは思わず顔を顰めた。


「なにかしら?」


「ゲームの中でまで女同士でいちゃつきやがって、気持ちわりぃ」


「はあ。それで?」


 男が大きい歩幅で二人へと近づいてくる。


「っ、あなた…」


「シャルちゃんあれって」


 男の頭上に浮かぶ、プレイヤーを示す結晶は真っ赤だった。


 それが意味するのは…


「PK」


「ったく腹立つんだよどいつもこいつも浮足立ちやがって」


「知らないわよ他のプレイヤーの話なんて持ち出されても。というか、浮き足立ってるのはPKなんてやってるあなたでしょうが」


「うるせぇなメスが。殺すぞ」


「まあ、野蛮ね。さっき戦ったゴブリンの方がいくらかマジだったわよ。見習ったら?」


「黙れ!」


 顔を真っ赤にして男が近づいてくる。


 しかし、手にはなんの武器も持っていない。


「シャルちゃん、やっちゃう?っていうかこれやっちゃったらPKになる?」


「たしかならなかったと思うけれど」


 シャルロットは曖昧な記憶を探って答える。


「でも、ここは私にやらせてちょうだい。いい所をじゃされて腹が立ってるの」


 リシアは喜色を隠しもしない顔で頷いた。


「えへへ、シャルちゃんがそういうなら」


「ごちゃごちゃ喋ってんじゃねぇ!」


 男の左拳が振り抜かれる。

 その拳は相当早かった。それこそ、武器が必要とは思えないほどに。


 しかし、それはシャルロットの目に映らない速さではなかった。


「なるほどね。素手で来たから舐めてるのかと思ったけれど、拳が武器ってわけ」


 シャルロットは左側を向くようにして体を回し、男の外側に動いて拳を回避する。左側に動いたのは右のストレートを放たれる可能性を危惧したためだ。

 左側にズレることで、必然的に次の右での突きが大振りなるというか算段だ。


「さすがダークエルフ、AGIは高めらしいな。だが…」


 男は重心を前足…つまり左足へと動かし、右足を反時計回りに回転させることで、コンパクトかつ遠心力の乗ったストレートを繰り出した。


「所詮素人だ」


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