デート(3)
シャルロットも想像していなかった速さで繰り出されたストレートは、素人のそれではなかった。
おそらく、現実で何かの格闘技をやっているのだろう。
その拳はシャルロットに大打撃を与えると男は確信していたのだが、その結果にはならない。
いくらシャルロットのAGIが高いとはいえ、確かに想定以上のストレートをこの距離で放たれて仕舞えば、回避することはできない。
なので、シャルロットは受け流すことにした。
「はっ?」
拳がシャルロットの顔面に的中する直前、顔の前に構えてあったシャルロットの手が、最短距離で拳の側面をポンと押した。
それは到底簡単な技術ではない。
少しでも力の方法が逸れればうまく男のストレートのベクトルが変わることはないし、そもそもシャルロットは男が動き出してから行動し始めた。
上記を逸した反応速度に決断力、それと力の制御であった。
自分の拳の勢いで回転した男は、シャルロットに背中を向けたような状態になる。
「隙だらけ」
シャルロットは男の顎を後ろから上げるように掴む。
その行動にいったいどんな意味があるのかと男は困惑した。この相手は間違っても素人などではない。すぐに振り解けばそれだけのこの行動にも何か意味があるはずだと思考を巡らせる。
しかし、それがミスリードであった。
「頭も硬い」
この行動の意味は「なんの意味もない」こと。
この行動を罠だと感じた時点でハマっていたのだ。
シャルロットは腰からダガーを抜く。
こんどはがっしりと男の首を腕でホールドし、少し空いた隙間に刃を内側に向けて逆手に持ったダガーを入れる。
「お前女のくせにつえーじゃねえか」
「関係ないわよ。それに、そこのリシアの方が強いわ」
「まじか。あっちがリシアで…お前は?シャルちゃんとか呼ばれてたが」
「なんで今から殺す相手に名前なんて教えなきゃいけないのよ」
こいつは何を言ってるんだと口に出てきそうな表情で不満を示す。
「別にいいじゃねえか。たかがゲームなんだしよ。あ、ちなみに俺はウッドロンだ」
「聞いてないわよ。さっさと死になさい」
躊躇いなくウッドロンの頸動脈にダガーを突き刺す。
「つえーやつは好きだ。これからもよろしく」
シャルロットはどうせ自分のSTRではすぐに殺せないと思い、首の中をダガーで掻き回す。
ゲームを始めてすぐであればいざ知らず、狩りを通してこの感覚も割と慣れたもので、特に何を感じるでとなくウッドロンをキルする。
死体はすぐにポリゴンになって消えていくので、グロテスクなものを眺める暇もない。
「わー…容赦ないね」
「邪魔するのが悪いのよ」
すると、システムアナウンスが二人の脳内で流れた。
《[シャルロット]の種族、職業、武器LVが上昇しました》
《[リシア]の種族、職業、武器LVが上昇しました》
「あら?レベルが上がったわね」
「結構レベル離れてたのかな。っていうか私ほんとに何もしてないからちょっと申し訳ない…」
「何言ってるの。どうせリシアがやっても同じ結果になったわよ。それより、リシアの名前をあいつに知られてしまったわ、ごめんなさい」
シャルロットは不注意をリシアに謝罪する。
「別にいいよ!襲ってきても返り討ちにできるし!」
それに対し、リシアは腕を曲げて上腕二頭筋に力をこめて答えた。
「頼もしいわね。ありがと」
「それで、シャルちゃんはもうログアウトする?」
戦闘自体は数十秒で終わったので、時間的に少しは余裕が残っているが、精神的に疲れたのではないかと思いリシアが問いかける。
「リシアは?」
「私はシャルちゃんに合わせるけど」
「じゃあ、もうちょっと散歩しましょっ」
シャルロットは自分からリシアの手を握りしめて歩き出す。
二人の顔が赤く染まっているのは、気恥ずかしさからか、夕日のせいなのか。それは当人たちしかわからない。
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