北の森(1)
シャルロットはその場所で、二足歩行した豚のような顔面の魔物"オーク"と対峙していた。
腕や脚は丸太のように太く、首ですらシャルロットやリシアの体よりも太いであろう。
身長も2mはあるように見え、多くの人が対峙するだけで萎縮してしまいそうだ。
シャルロットは今、セリウスの北の森でレベリングに励んでいた。
というのも、二人の種族、職業、武器のレベルはまだ6で、プレイスタイルのそれらの特徴がまだ弱いということを気にして、少しの間レベルを上げることに注力しようというわけである。
ここら一帯で最も強い魔物は、エリアボスであるトロールを除けばオークである。
つい先ほど、シャルロットとリシアの二人でオークの番を討伐した。確かに身体中硬く、攻撃は通りづらかったが、眼や首を狙えば案外問題なかった。
であれば、二人で別れてそれぞれ狩りをした方が効率がいいということで今シャルロットはひとりで狩りをしている。
ちなみにパーティの経験値分配の有効範囲はかなり広く、まだ検証は済んでいないらしいがおそらく同じフィールド内に入れば対象になるほどだとか。
「ブルォ!」
オークは雄叫びを上げながら長く太い腕をシャルロットの頭に向けて振り回す。それは大きな質量を感じさせないほどのスピードがあった。
「速いのだけど、大きいから見やすいのよね」
シャルロットが重心を落として回避すると、オークは自身の腕の重さに振り回されて体幹を崩した。その隙を逃すことなく、オークの目にダガーを投げつける。
「ブオォォオ!」
しっかりとオークの目にダガーが突き刺さり、オークは苦痛に大声を上げる。
オークはこの森における食物連鎖の上位存在であり、傷付けられることはそれこそエリアボスのトロールにしかない。そのトロールも一体しか存在しないとなれば、これまでの生活で大きな傷を負ったことがないオークも大量にいるのだ。
シャルロットが相対しているオークもそのようなオークだったようで、初めての苦痛に混乱を極める。
シャルロットは、オークの混乱状態が覚める前に素早く後ろに回り込む。
前側から近づけばオークが闇雲に振り回している腕に当たる可能性があるためだ。
女性にしては高い身長のシャルロットだが、腕を伸ばしてもオークの目まで腕が届かない。なので、オークの背中の贅肉に足をかけてひょいと肩に跨る。
「うわ、どんだけ声でかいのようるさいわね」
オークの混乱も冷めてきたようで、肩に乗ったシャルロットを掴もうと巨大な手を動かす。
が、当然のように間に合わない。
シャルロットは目に突き刺ささった状態のダガーを上側に向けて深く指し直す。
頭自体はそこまで大きくないオークの脳にまでダガーを届かせると、すぐさまダガーを引き抜いて首を切り裂きながらオークから降りた。
ドスン!と最後まで大きな音を立ててオークが地に伏す。
「うん?消えないわね」
いつもの戦闘であればすぐにポリゴンと化して消えるはずのオークの死体がまだ残っている。
それは、戦闘がまだ終わっていないことを示していた。
シャルロットの背後の茂みから、パキリと枝を踏む音がする。
シャルロットは反射的に振り向いて音のした方向を見ると、木々の合間から今まさに矢を放つゴブリンの姿があった。
「いたっ…ゴブリンアーチャーってやつね。初めて見たわ」
多少距離があったものの、
ゴブリンには上位種族として、ゴブリンソードマン、ゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャーなどの武器を扱う種族がいる。
シャルロットが今対峙しているのはそれだ。
しかし、これらのゴブリン達にはある共通点がある。それは、役割の異なる別のゴブリンとパーティの様な群れをなしていることだ。
物音がしないことから考えるに、オークと戦闘している間に既に囲まれていると考えるのが妥当な線だろう。
(どうするべきかしら…仮にメイジがいれば一番厄介だけれど、まだ何処にいるかはわからないし、ここはアーチャーから潰すべきね)
シャルロットは飛来した二度目の矢を今度は余裕を持って回避すると、アーチャーの方向に駆け出すと、木々の隙間を素早く抜けてゴブリンの元に辿り着く。
想像以上にシャルロットが早く現れたので、ゴブリンはその衝撃に一瞬動きが怯む。
シャルロットはその隙を逃さず、ゴブリンが次の矢を準備する前に肉薄すと、ゴブリンが弓を使って首元を守るので、足をかけて肘で体を押し、地面に倒す。
倒れた衝撃で弓が手放され、守るものがなくなった喉を突いて倒した。
「さて、残りはどこに…」
と考えたところでゴブリンアーチャーがポリゴン化して消滅した。
「あら?はぐれか何かだったのかしら…」
《[シャルロット]の種族、職業、武器LVが上昇しました》
《[リシア]の種族、職業、武器LVが上昇しました》
レベルアップの通知が戦闘の終わりを告げた。
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