待ち合わせ
幸多からんことを、という神職関係で聞きそうなセリフがシャルロットの耳に入った途端、シャルロットは青白い光に身を包まれた。
次第に周囲からガヤガヤと音が聞こえてくる。
目を開くと、そこは別世界の街の中だった。
出店や商人が多くいることを見るに、商店街か何かだろうか。
そこにいるのは人間だけでなく、動物の耳や尻尾が生えた獣人もだ。エルフやドワーフはほんの少ししかいない。
現代日本と違い、何にも縛られていない様な、どこか自由な笑顔が住民達の顔には浮かんでいた。
シャルロットは茜と街の中央広場で待ち合わせをしているので、そこへ向かおうとする。しかし、場所がわからない。
「中央広場ってどこかしら…?」
別にシャルロットが方向音痴だとかそういうわけではない。むしろ方向感覚は人並み以上にある方だ。
しかし、このゲームはマップの表示がない。
いくら方向感覚が優れていたとて、さすがに知りもしない場所へ向かうの難しい。
「まあその辺の人に聞けば良いわね。…そこのあなた、ちょっといいかしら」
シャルロットは適当に目についた猫人に声をかける。
「はい?どうかしましたか?」
頭上に表示がないため、この猫人はプレイヤーではない。
プレイヤーは一定以上近づくと、頭上に青い結晶の様な表示があるのだ。
ちなみに、この決勝はゲーム内で犯した犯罪の重さによっては色が赤色に近づいていく。
殺人を犯せば真っ赤な表示だ。
「中央広場へ行きたいのだけれど、時間があれば道を教えてくれないかしら」
「ええ、構いませんよ」
猫人は人当たりのいい笑みを浮かべながら、快諾の返事をする。
「まあ教えるとは言っても、ここから西側…えと、あっち側にずーっと真っ直ぐで着くんですが」
方角を口にした直後に、広場の場所も知らない人間が方角をわかるわけがないと気づいたのだろう、丁寧に方向を指差してシャルロットに教える。
「そうなの。わざわざ教えてくれて助かるわ、ありがとう」
「いえいえ気にしないでください。では私はこれで」
このゲームでは、全ての生物にAIが搭載されている。…そう、全ての生物にだ。
彼らNPCだけではなく、モンスター達も意思のある"生きた"存在なのだ。
もはや、ノンプレイヤーキャラなどとは言わずに現地人とでも呼ぶべきだろう。というか、公式サイトでは実際に現地人と記されている。
現地人達は、当然一度HPが全損すれば命を失う。そのため、プレイヤー達はこの世界で現地人に障害などの不利益を与えれば、騎士団や兵士団などの取締り組織に逮捕され、罪に応じて現地の法で裁かれる可能性もある。
一昔前の二次元的なゲームの様に、都合よく現地人に攻撃が当たらないゲームではないので、少なくとも街中で武器を取り出すのは控えるべきだろう。
さて、歩くこと数分。シャルロットは思ったより早く中央広場へと辿り着いた。
「…待ち合わせ場所だけでなく、アバターについても話し合っておくべきだったわね。これじゃどこにいるかわからないわ…」
割と真剣に困り始める。
ゲーム内で判断するのが難しいとはいえ、流石に一度ログアウトして聞きにいくのとめんどくさい。
一体どうしたものかと考えていたその時。
「あのー…もしかして、シャルロットちゃん、ですか?」
後ろから聞き馴染みのある声で話しかけられた。
「ええ。あなたはリシアね?」
「よかった!シャルちゃんだ〜」
亜麻色で、ゆったりとパーマのかかった肩下まである髪、茶色でクリクリとした大きな目、人の良さを感じさせる笑みにかなり高い身長。
茜…ではなく、リシアである。
「というか、あなた何一つアバター変えてないじゃない。それ大丈夫かしら…」
当然の話だが、あまりにも違和感がなかったため、シャルロットは一瞬リシアをアバターとして認識できなかったのだが、すぐに我に帰り心配し出す。
「何か問題が…?あっ、これもしかして身バレとかしちゃうかな」
数秒の思考の末、リシアもシャルロットが何を心配しているのかわかった。
「リシア今気づいたの…?そういうところ抜けてるわよね、私心配だわ」
「むぅ〜…ネットにまるで触れてこなかったんだから仕方ないじゃん」
「個人情報に関わることくらいしっかりしなさい」
「…はい、気をつけます」
シャルロットがぐうの音も出ないほどの正論しか言わないため、リシアも諦めて反省する。
「そうしてちょうだい。私も色味を弄ったくらいで、あまり人のことを言えたわけではないし」
「たしかに、私もそれで気づいたしね」
見た目についての話がひと段落したところで、シャルロットが話題を転換する。
「見たところ、リシアの種族は予定通り人間かしら?」
ソフト購入権の当選がわかったその日の作戦会議で、リシアは種族を人間にすることに決めていた。
人間は全ステータスが20ほど増加する器用なタイプだ。そして獣人や亜人、シャルロットのエルフなどの種族と違い、種族レベルの上限が100レベルと高い。
「そうだよー。シャルちゃんは…聞くまでもなくダークエルフだね」
尖った耳と褐色の肌に目をやると、自己完結する。
「そうね。…というか、私の呼び方は『シャルちゃん』になったのね」
「いいでしょシャルちゃん。可愛くて」
「まあたしかに。…とりあえず、お互い予定通りに初期設定はしたみたいだし、最低限の装備を買いに行くとしましょうか」
「はーい」
二人は話を終えて、その場から歩いて移動し始めた。
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