初期設定

 不思議な空間だった。

 初めは真っ暗で何もない所だったのだが、次第に紫や青の輝く光の粒が頭上から降り出し、それはスモークのように足元に溜まってゆく。

 

 ライブの演出でも見ているような気分になり、沙良は自分がNWOの初期設定をしようとしていることも忘れて光のなす煙を眺めていた。


『プレイヤーネームを設定してください』


 すると、どこからか声が響き、沙良の意識が引き戻される。沙良の前に半透明のキーボードのようなものが現れた。打ち込んで設定しろということだろう。


「シャルロット…と」


 沙良がこの一週間の間に決めたプレイスタイルは暗殺者だ。

 そのため、実在した人物であるシャルロット・コルデーから名前をとっている。このシャルロット・コルデーは、フランス革命時に対立派閥のリーダーであるジャン=ポール・マラーを暗殺したというのが有名な経歴で、暗殺の天使という異名を持っている。


『[シャルロット]…プレイヤーネームの重複は確認されませんでした。[シャルロット]で登録されます。なお、プレイヤーネームは変更できませんが、よろしいですか?』

 

「大丈夫よ」


『続いて、初期種族の選択をしてください』


 沙良改めようシャルロットは、返事をした後に声で返事をするのが正しいのかどうか一瞬考えたが、どうやら正しかったらしい。


 続いて種族選択のために大量の種族が半透明のパネル上に表示される。


 人間やエルフ、猫人などのよくあるような種族から、アラクネやケンタウロスのような亜人系の種族まである。


 公式サイトによると、人間種と亜人種では初期のリスポーン地点が違う。他人種というのは、人間と三分の一以上の部位が異なる種族のことだ。

 

 しかし、シャルロットが選ぶ種族は[ダークエルフ]なのであまり関係はない。


 このゲームの世界中では、ダークエルフは昔エルフと敵対しており、戦争に敗北して当時の集落から追いやられ、それまでとはまるで異なる環境へと居住域を移したらしい。

 その地域での生活に対応するために、もともとエルフ系統の種族に備わる魔法系のステータスと、敏捷性のステータスが上昇していったとか。


 ともあれ、シャルロットは[ダークエルフ]を選択した。


『種族を[ダークエルフ]に設定します。一度設定すると他の初期種族には変更できませんが、よろしいですか?』


「ええ」


『続いて、初期職業を——









 そんな調子でシャルロットは設定を続けていき、10分ほどの時間で完成したステータスがこれだ。



[ステータス]

名称:シャルロット

種族:ダークエルフ〈1/50〉

職業:暗器使い〈1/30〉

武器:ダガー〈1/100〉

HP:110/110

MP:160/160(+50)

STR:11

VIT:11

DEX:21(+10)

AGI:61(+40+20)

INT:41(+30)

スキル:なし

称号:なし



 〈〉内の数値はレベルとレベルの上限、()内の前のプラスの数値が種族による増加量、後のプラスの数値が職業によるステータスの増加量である。


 職業は暗器使いで、AGLが上昇する。暗殺者は初期職業にないので、おそらく暗器使いの上位職業なのだろうと踏んでのシャルロットの選択だ。


 次に武器についてだが、シャルロットはダガーを選択した。

 ダガーやナイフなど小型の武器は、AGLの減少がなく、側から見て目立たないという特徴があり、これがプレイスタイルに合っているからだ。


『続いて、プレイヤーアバターの作成に移ります』


(アバター…正直なところ特に変えたいわけでもないのよね)


 シャルロットは現実の容姿が悪いわけではなく、むしろ良い方だという自覚があるため、特段アバターを変えたいとも思っていなかった。


 そう考えていると、目の前に肌が褐色に、耳が長く鋭くなった紗良の身体が現れる。


(ああ、そういえばダークエルフは肌の色が黒めだったわね…そうなると、黒髪というのはあまり似合わないわね)


 色々の悩むこと数分間、シャルロットのアバターが完成した。


 現実にはまずあり得ないほど透き通った銀色で、肩にかからないほどの長さのストレートヘア。

 サファイアの様な輝くを放つ青い瞳に、整ったパーツの配置の顔。

 女性にしてはある程度高い身長にスレンダーな体つき。


 本人からしてみれば現実とさほど違いはないため理解していないが、実際は一度見れば誰もが忘れないほどの美女である。


《以上で初期設定を終了します。シャルロット、あなたの旅路に幸多からんことを》

 

 ともあれ、初期設定は無事に終了するのだった。




 

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