冒険者ギルド
二人はセイリスへ戻ってくると、冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドは街の南側にある6階建のセイリス内で最も大きな建造物だ。
なぜここまで巨大な建物なのか。
それはには地理的な理由が2つ絡んでくる。
まず、このセイリスは現地人の侯爵位をもつ貴族の領地の中で、それぞれの街への中継地点となる役割を持っているため。
NWOの世界では魔物が強力な人類の敵という立ち位置であり、通常商人たちは魔物に対抗する手段を持ち得ない。
そこで活躍するのが冒険者だ。傭兵という立場のものもいるにはいるのだが、長い期間この周辺では戦争が起こっていないためかなり数が少ない。
商人たちは別の街へ移動する際に冒険者を雇う。そのため、必然的にこの地に冒険者が多く存在する。
次に、どちらかといえばこちらが主な理由になるが、付近…セイリスの北の森にダンジョンが存在するため。
ダンジョンには攻略難易度で分けられた等級があり、上から順にS、A、B、C、Dとなっている。北の森のダンジョンはAランクだ。
A級ダンジョンですらほとんどないと言っていいほど数が少なく、さらにこのダンジョンは未攻略。仮に攻略に成功すれば冒険者として英雄とすら言える功績になる。
となれば、当然冒険者が集まるわけだ。
人数が大きくなれば受付だけでもそれなりの広さが必要だし、魔物の素材の買取なんて仮保管場所がどれだけあっても足りないし、書類の管理だけでも相当な数の人間が働かなければならないし、日常の一幕のように争う冒険者の決闘場まで生まれる。
と、そのような諸々の理由で巨大な建物になったわけだ。
それだけ大きいとやはり目立つもので、二人は誰かに聞く必要もなく冒険者ギルドに辿り着いた。
「なんか、もっと荒くれてるイメージがあったけど割と小綺麗だね」
「たしかにそうね。まあ統制されてるのは良いことじゃない」
そんな会話をしながらギルドの戸をくぐる。
「登録はどこですれば良いのかしら…」
「あっ、あそこのカウンターの上に登録専用って書いてるよ」
冒険者は現地人の方が圧倒的に多いため、ほとんどが男性だ。
シャルロットも女性としては身長が高めではあるのだが、さすがに周りを見渡せるほどではない。
そこで170cmほどの身長があるリシアが周囲を見渡した結果、登録用のカウンターを発見した。
「あら。わかりやすくていいわね」
依頼関連のカウンターに比べれば圧倒的に人の少ないその列に並ぶ。
「にしても、なんでNWOの中の言語って日本語じゃないんだろ」
ふとリシアがそう呟く。
NWOで用いられている言語は日本語ではない。
街中で現地人と会話すると明らかに聞こえてくる言葉と口の動きが違うことがわかるし、カウンター上の簡易的な説明も日本語ではない。
なぜプレイヤーたちがその言葉を聞き取れて読めるのか。
情報サイトでは、魔力なるものが思念として飛ばされてるーだとか、プレイヤーの耳に入る前にAIによって翻訳されてるーだとか色々な意見があるが、どれも考察の域を出ておらず実際のところはわからない。
「これは有名な考察なのだけれど、NWOの世界はNWOというゲームを作り出すことを目的としたわけじゃないという説があるわね」
「…?どういうこと?」
「もともとこの世界は技術者の手によって生み出されたプログラム上の、ある種実在する世界で、ゲームとして作り変えられる直前までは目を加えられることなく自然に発展してきたっていう、そんなのよ」
だからこそ、現地人たちは地球にない文化的発展を遂げていたり、以上に細かい歴史を持っていたり、それこそ独自の言語体制を築いていたりする。
この世界はゲームの世界ではないという説を用いれば、そう説明することもできるだろう。
「む、難しい…」
首を傾げて目を回すリシア。周囲に「?」でも浮かんできそうだ。
「ふふ。でも、このゲームがどういうものであれ私たちはあくまでプレイヤーだし、気にする必要はないわよ。これも考察なのだし」
「そうだよね!忘れよっと」
そんなこんなでようやく二人の順番がやってくる。
「登録ですね。ではまず、お名前を教えてください」
「シャルロットよ」
「リシアです」
「はい。ここからの質問は全て任意になりますので、答えなくても問題はありません」
((名前だけ!?))
二人して心の中で驚いているが、そこまでおかしな話でもない。
まずもって、冒険者とは安定とはかけ離れた存在である。
プレイヤー達と違って一度死ねば蘇ることはない現地人は、他の職種と違い死ぬ可能性の高いある冒険者になど基本的になりたくない。
ではどのような人達が冒険者になるのか。
一部は、冒険に憧れを持つ者や、依然冒険者に救われた者。
さらに一部は、それと、一攫千金を狙って命を賭す無謀な者。
そして大半は、学がないものだったり、さまざまな理由から働き口がなくなったものだったりだとか、そういった理由で他の選択肢がなかったもの達だ。
なので、個人情報を晒せない、晒したくない人が大勢いる。
登録に必要だからと押し切ってしまえば、多くの冒険者が消えていくだろうと想定されているため、最低限個体の判別のために名前だけは聞くことにしている。
それでも一応他の情報も聞いておくのは、依頼の斡旋などに役立つ場合があるからである。
「武器は何を使いますか?」
「私はダガーを」
「ロングソードです」
「職業はなんですか?」
「暗器使いよ」
「剣士です」
「種族は——」
そんな基本的な質問を10個程度繰り返された後、受付嬢が紙を取り出して何かし始める。
「【記録】」
紙の上に魔法陣が現れ、白紙の紙に先ほどの質問の答えがまとめられたものが浮かんでくる。
それを2回繰り返すと、受付嬢は二人を見て微笑む。
「以上で登録は完了しました。お疲れ様です。お二人は文字は読めます?」
「読めるわよ」
「でしたら、こちらの書類を渡しておきますね」
手渡された資料には、冒険者についてのルールと、冒険者ランクなるものの仕組み、それと依頼について書かれていた。
とは言っても、ルールは簡単に言うと人間として分別をつけましょうというもので、冒険者ランクの仕組みも下からE〜Sランクまであって、Aランクまでは依頼達成の履歴で、Sランクは実績と試験で決まるというもの。
依頼についても、失敗したら違約金を取るから失敗するなというものと、無理して難しそうなの受けないでほしいというお願い、それから怪我などは自己責任だという簡単なものだった。
「では、これから頑張ってくださいね」
二人はカウンターから離れた。
「さて、さっきの狩りでの素材を売って、地図を買ったら出ましょうか」
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