23:いつもやってくる新しい朝が来た
我々は移動二日目を迎え、すっかり明るくなった空を私は見つめていた。本日も太陽の笑顔がわかるほど雲一つない空模様で、今日も今日で移動にはあまり困らない天気である。
そんな空を見つめながら私は左を見るとそこには昨夜、命のやり取りをしたはずの敵の刺客がおり、彼女は主と仲良く会話をしていた。
「いい包丁捌きじゃない。エクスちゃんと違った上手さがあるわ」
「切るの得意。あ、あと刺すのと叩くのも」
「いいわねいいわねやるじゃないのッ! お手伝いさんが増えておばちゃん助かるわぁぁ。あ、ところでアンタ名前なんていうの?」
「ファイ。みんなからは不吉がられてる」
「不吉がられてる? こんなにかわいいのに? もぉー、その人達見る目がないわ。おばちゃんから見てもとってもかわいいわよ! ホントかわいくておばちゃんの若い頃にそっくりよッ! あ、そうそう若いといったらマー君ね。マー君ったらなぜか恋人を連れてきてくれないのよ! もしかしたらおばちゃんが嫉妬しちゃうって考えてるのかしら? おばちゃんそんな狭い心じゃないわよッ! もうウェルカムなんだからね。かわいかったらみんなに紹介しちゃうんだからッッッ!」
主よ、おそらくそれが嫌だと思うぞ。
私は心の中で指摘をしているとファイと名乗った少女は目を大きくしていた。どこか驚いているようにも見えるその表情で主を見つめ、リンゴの皮を剥きながらあることを問いかける。
「私、かわいいの?」
一応、彼女の容姿を確認してみる。
背中にかかるほど長く雪のように白く輝く白銀の髪に、琥珀色に染まった大きな瞳が印象的な顔だ。身体は小さいながらもすらりとした手足があり、ほどよい膨らみの胸と尻というもので鍛えていることもありバランスのいい体型だ。
なるほど、敵対せず普通に暮らしているのであれば貴族に声をかけられてもおかしくない見た目である。
「かわいいわよ! ホンットおばちゃんの若い頃にそっくりなんだからッ! なのに怖がっているなんておかしいわ。男なら背伸びでもなんでもして高嶺の花にアタックしないとおかしいわよッ! ホント見る目がないわね!」
「そう、かな? みんな見る目がなかったんだ」
「そうそう。あ、見る目がないで思い出したんだけど、お父ちゃん最近骨董品を集めてて困っているのよ! ホントあれ辞めて欲しいんだけど。場所取られて困っちゃうんだけどッ」
かわいいと褒められたためか、ファイは主の話を楽しそうに聞いていた。その姿は年相応のものであり、素朴で素直なかわいらしい女の子のように見える。
ふと、主を見つめていると一瞬だけ鋭い殺意が迸った。反射的に振り返ると主に向かって矢が飛んできていることに気づく。
マズい、脳天に直撃する!
そう思い守りに入ろうとするが間に合わない。このままでは主が殺される、と思った瞬間にファイが右手を突き出した。
「あら、どうしたの?」
「蚊が飛んでた。たぶん血を吸おうとしてたと思う」
「いやーねぇ。蚊はおばちゃん嫌いなのよ。あとで蚊取り線香を買っておかなきゃ」
「大丈夫、また飛んでたら握りつぶすから」
「メッ! 女の子なんだから綺麗にしなきゃいけないわよ。肝心な時に汚くしてたら相手も困るでしょッッッ!」
「わかった、気をつける」
そういってファイは飛んできた矢を握りつぶしていた。そのことに気づいていない主は、再び楽しそうに家族の話をし始める。
なぜ主を助けたのか。よくわからないが、この行動は敵に対する明確な裏切りだ。もしかしたら我々を欺くためにやった可能性もあるが、何はともあれ主を助けたことには変わりない。
『なぁ、そろそろ飯を食わないか? 腹がペコペコだぜ』
「ニャー」
「はいはい、わかったわよ。もう少しで準備ができるから待ってなさい」
シロブタとキナコに促され、主はできたご飯を盛り付けていく。簡易的なテーブルと椅子を並べ、朝から精を出して特訓しているライオと付き合っていた聖剣達が戻ってきたことを確認し、みんなで顔をつきあわせる。
その中にはファイもおり、並べられたご飯に目を丸くしていた。
「さ、みんな食べるわよ! 手を合わせて、いただきまぁす!」
全員が主の真似をし、ファイはみんなの真似をして一緒に食べるための挨拶をする。そして各々の前に置かれた白米、茶色に染まった汁、焼かれたタマゴにソーセージ、刻まれたキャベツなどが乗った皿を確認する。みんなが食べたいものから手に取っていく中、ファイはなぜかずっと見つめていた。
「あら、どうしたのファイちゃん?」
「これ、食べていいの?」
「いいに決まってるじゃない。あ、もしかして遠慮しちゃってるの? そんなことしなくていいわよぉぉ」
「許可はいらないの?」
「そんなの必要ないわよ! もぉ、ファイちゃんってもしかして照れ屋さん? 男の子なら放っておかないわね。でもたまには大胆にならなきゃいけないわよッ!」
主よ、それは大胆ではなく図々しさというものではないか?
「そう、だね。ありがと」
「よくわからないけど、どういたしまして」
私は主が作ってくれた食事を楽しみつつ、ファイを見た。なぜだかわからないが彼女の目は輝いている。なぜそんな目をしているのか。気になるが、おそらく深く聞かないほうがいいだろう。
それに私なんかよりも適任がいる。だから彼女が踏み込むまで疑問を心の隅に置いておくことが正解だ。
『いただきー!』
「あ、俺のソーセージが!」
他の者も食事を楽しんでいる様子だ。まあ、主の料理は想像していたよりも美味しいから無理もない。
さて、昨日は遅々として進まなかった移動だ。本日はどうなるだろうか。
「こら、シロブタちゃん! 他人のご飯盗らないの!」
『うっせババア! この量じゃあ物足りないんだよ!』
「ババアじゃないわよ! まだ五十才だからね!」
『十分ババアだろうが!』
「ったく、口が悪いわね! そんなにお腹空いているならおばちゃんの分をあげるわ。だからもう盗っちゃダメよッ!」
シロブタは主に促され、ちょっとバツの悪い顔をした。ひとまず受け取り、ライオに一本のソーセージを返す。あとは遠慮なく食べ、とても満足げな顔をしていた。
こうして賑やかな朝のご飯は終わる。そして恒例の挨拶をし、移動が始まるのだった。
「ごちそうさまでしたッッッ!」
本日はどうなるだろうか。苦労するだろうが、どこか楽しい一日になると私は考える。
まさか想像以上に大変なことになるとは、この時の私は思ってもいなかった。
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