6:特典に大切なのは存在そのもの 後編
冒険者ギルドに訪れた私達は、主を冒険者にするために登録作業をしていた。そんな時に若い男性が何やら騒ぎ始める。
面倒なことにならなければいいが、と考えていると主がその男性を見つめていた。これはもしかしたら一波乱あるかもしれない。
「鑑定水晶がそう結果を出したのでそうとしか。ひ、ひとまず頑張れば星は増えますし」
「鑑定し直せ! すぐに三つ星を受けなきゃいけないんだよ!」
「そう言われましても……一度出た鑑定は直せませんし、し直すとしてもギルド規定では一年後でなければいけませんし」
「っざけんな! 時間がないんだ。すぐに行かなきゃ約束を守れないんだよ!」
何やら大きなトラブルが起きているようだ。こういうのは関わらないほうがいい。それに私は本来、人との交流をあまり持ってはいけない存在であり積極的には関わることを許されていない。彼には悪いがここはことの成り行きを見守らせてもらおう。
「ちょっとアンタ、うるさいわよ!」
だがそれは主が許さなかった。
ああ、無用なトラブルは嫌なのに。
「うるさい、黙ってろ! お前には関係ないだろ!」
「だったらアンタも黙りな! 今、アタシは結構大切な説明を聞いてんだよッ」
「んだとババア!」
男性が頭に血が昇ったのか腰に備えている剣を抜こうとし、私は咄嗟に飛んでぶつかる。男性は思いもしないことに倒れ、驚いていきながら私を見た。何が起きたのかわからない顔をする彼に主はある行動を取る。
「ねぇ、さっきの水晶を出して欲しいんだけどいいかしら?」
彼女はまっすぐ前を向いたまま受付嬢にお願いすると、鑑定水晶が出された。
何をするのだろうか、と考えつつ私は見守っていると彼女は思いもしない行動を取る。
「ほら、触りな。おばちゃんの分をあげるから」
「なっ! お前何を言ってんだ!」
「納得出来ないんでしょ? ならもう一回やらせてあげるわ。いいでしょ、お姉さんッ!」
「え? え、ええと、ギルド規定にはないのでなんとも――」
「なら大丈夫よ。ほら、おばちゃんの権利をあげるからやりな」
男性は鑑定水晶を見る。一度は手を伸ばそうとするが、すぐに自分の頭を横に振った。そのまま下がり、おばちゃんにこう言い放つ。
「悪い、俺がバカだったよ。自分の都合だ。自分でどうにかしてみる」
「あら、いいの? 約束があるんでしょ?」
「同じ結果が出るよ。それにアンタの優しさに甘えてられないしな」
男性は迷惑をかけた受付嬢に頭を下げ、どこかに去っていく。どうやら主のおかげで騒動は収まったようだ。一安心、といえばいいだろう。主もそのことがわかっているのか、去っていく男性の背中を優しく見送っていた。
「ええと、そうですね。ひとまず説明の続きをさせていただきますね」
気を取り直した受付嬢が説明を再開すると主はそれに真剣な顔をして耳を傾け始める。ひとまず冒険者としての基本的なことを説明され、少しずつ理解している様子だった。
私はそんな彼女から視線を外す。先ほどの騒動を収めたということもあってか、まだ主を見ている者達がいた。
ただでさえ目立つから仕方がないかもしれないな。
「では最後に、冒険者ライセンスの説明を」
「あら、何そのカード? あ、もしかしてポイントカードかしらッ!」
「ポイント? ま、まあ似たようなものです。これは魔物を倒せばギルドポイントが加算されていきます。名前持ちなら通常の二倍、二つ名持ちなら三倍、手配書の魔物なら十倍のポイントが加算されます。あ、報酬はあらかじめ設定されていますが、状態によっては追加報酬も支払っていますので――」
「やるわ! アタシ、冒険者やるわ!」
「え? あ、あのまだ説明が――」
「ポイントカードあるならやるわよ。おばちゃん、ポイントのためなら戦場に立つわ。あ、ちなみにポイントって何と交換できるの?」
「ええと、武器や防具、冒険に役立つアイテムに、一般的なものなら食料や服も買えますけど――」
「いいじゃない便利じゃないやるじゃないッ! アタシやるわ。ポイ活始めるわ!」
こうして主は冒険者になった。
ちなみに鑑定水晶の鑑定結果は、星三つ。私の影響もあるが、一般の駆け出しの中ではとても高いランクだ。だからより一層、主は注目される存在になったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます