18:見違えるほどのビフォーアフター 前編
はじまりの町を出発してから約五時間ほど、私達は町が見える平原の真ん中で晩ご飯の準備をしていた。なぜそんなに進んでないのかは聞かないでくれ。
ひとまず役割をそれぞれに分担し、準備を進めていく。私は持ち前の機動力と地の利を活かし、水を運ぶ係だ。ちなみにシロブタは火起こし、ライオは主の補助という役目を負っている。キナコは完全にペットのためか、丸まって気持ちよさそうに眠っていた。
『くっそー、楽をしやがって。今度労働ってもんを教えてやる』
先輩風を吹かせるシロブタはそう文句を言いつつ魔法で火を起こす。いわく、ちょうどいい火加減にするのが難しいと嘆いていたが、私から見るとどこか楽しそうな顔をしていた。
私はそんなシロブタの様子を一通り見た後、水を求め移動し始める。確かすぐ近くに我が配下が住む泉があり、彼女は困った者を放っておけない性格だったはず。ならば少しぐらい水を分けてくれるだろう。
そんなことを考えつつ、私は〈
ふと、泉の前に立つと唐突に水面が光を放ち出す。その様子を見ていると水の中からゆっくりゆっくりと何かが出てくる。なびく金色の髪に吸い込まれるような碧い瞳、白く透き通るような肌に私は目を奪われる。そんな美しい身体を包み込む深緑の衣が一瞬吹いた風でなびくと、彼女は笑った。
「お久しぶりです、我が契約者」
『あ、ああ、数年ぶりだな。前よりも大きくなった気がするが、成長したのか?』
「いえ、ここ最近泉への奉納が多かったのでそれが影響しています。契約者はどうですか?」
『私は主を得た。まあ、少し無理矢理ではあったがおかげで魔王討伐の目処が立てられた』
「ホントですか! やっと、やっと進むんですねっ」
私の言葉を聞き、泉の少女は自分のことのように喜んでくれる。それは当然のことかもしれない。彼女にとって魔王討伐は三代前から続く長年の課題であり、大きな目標であり、自分の代で終わらせるために成したい夢でもある。
それが少しでも前に進み出したのだ。喜ばない訳がない。
『そこでだ、少しでも成果を得たい。だから悪いが協力をしてもらえないか?』
「はい! なんでも仰ってください!」
『では始めに、水を分けてくれ。我が主と同行者のために今必要でな』
「承知いたしました!」
彼女は快く泉の水を分けてくれる。その姿は実に健気であり、だからこそなのか私は心が痛んだ。
まさかこの聖なる水が今晩のご飯に使われるなんて思ってもいないだろう。
『ありがとう。では、また機会があったら寄らせてもらう』
「はい、待っております!」
さて、これで水は確保できた。あとはこれを主の元へ無事に届けるだけだ。そう思っていた矢先、ドカーンというとんでもない音が響き渡った。私は思わず驚き振り返ると、なぜか平原が真っ赤に燃えている。
なんだ、敵襲か!? まさか攻撃されたのか!!!
大慌てで泉を飛び出し、私は主がいる平原の真ん中へ向かう。だが辺りは灼熱に包まれており、なかなか進むことができない。
く、主よ!
私は仕方なく泉の水を使った。真っ赤に染まっていた一帯を沈静化していき、どうにか進んでいく。
無事であってくれ、と願いつつ走るとようやく主達の姿を発見した。
「ちょっと、晩ご飯が全部パァーじゃない!」
『うっせぇー! 悪いのは全部キナコだぞ!』
「全部燃えちまった。せっかくもらったアイテムが全部……」
『私は燃えてないけど。もしもーし、こっち見ろー』
『へへへ、エクスちゃんかわいい。えへへへへへっ』
『どさくさに紛れてどこ触ってんだ、お前ー!』
どうやら無事のようだ。だが少し様子がおかしい。なんだかケンカしているようにも見えるが、どうしたのだろうか?
『おい、聞いてくれよ! 俺が火起こししてたらキナコが頭をかじりやがった! そのせいで力加減間違えちまったよ!』
『まさか驚いて力加減を間違えたのか?』
『そうだって言ってんだろ! そうじゃなきゃ平原が火の海なんざならねーよ!』
私は頭を抱える。キナコがなぜシロブタの頭をかじったのかわからないが、思いもしないイタズラによって平原が火の海となってしまった。だが、だからといって大きな爆発が起きるとは思わないが。
私は元凶であるキナコに目を向けるとシロブタが秘める大きな力に驚いたようなのか、主の後ろにずっと隠れ私達を見つめている。その顔は恐怖心というよりも好奇心に満ちている様子で、サンサンとした輝きが放たれていた。
「ったく、今度は気をつけてねシロブタちゃん! それより神様、お水持ってきた?」
『すまん、ここに来るまでに使ってしまった。また取りに行こう』
「あら、そうなの? まあ火事になっていたからね、仕方ないわよ。でもお水がないと困るわねぇ。また火事が起きるかもしれないし」
主がちょっと困ったように頭を傾げていた。料理には水を使う。他にもいろいろな用途で使えるため、水がないと困るのだ。
そんな主を見てか、ライオがこんな提案をする。
「だったらその水がある場所に移動しないか?」
それは当たり前な提案だったがみんな思いつかなかったのか、ほとんどがライオに賛同する。私もそれがいい、と思い賛同しようとしたがシロブタは違った。
『俺は嫌だね。どうせそこはお前の配下がいる所なんだろ? 俺をハメて浄化する気なんだろ? そんなのお見通しだからな!』
面倒臭いなこいつ。なんでチラチラ私を見ているんだ。一緒に行きたいんだろ、お前は。
『なんだよその目は! あ、そうか。俺が浄化されて苦しんでいる姿を見て楽しむ気なんだろ! そうなんだろ、お前!』
『いや、そんな変な趣味はないが……』
『嘘だ、絶対に嘘だ! お前は俺の苦しむ姿を見て楽しみたいんだ! そうだ、絶対にそうだっ! お前はそんな変態だ!』
『誰が変態だ誰が』
シロブタがなぜか身体を隠し、ジトっとした目で私を見つめている。そんな行動を取るせいか、主を含め女性陣が私を蔑む視線を向け始める。
いや、私にはそんな趣味はないんだが。断じてないんだが。というかこれまでの私の行動でわかるだろ!
「やーねー。もしかして結構ヤバい性癖を持ってるのかしら?」
『かもね。そういえばこの前、苦しんでるスライムをずっと見てたよ』
「いやーねー。神様そんな人だとは思ってなかったわぁぁ」
信じるなよ! 私よりもシロブタを信じるっていうのか! 私をなんだと思っているんだ! くっ、おのれシロブタ。この恨み、いつか晴らしてやる!
私が思わず唸っているとライオが苦笑いしながら声をかける。それはおそらく私の怒っている姿に見かねての行動だったのだろう。
「ま、まあ、ひとまず行こうぜ。どのみち水は必要なんだろ?」
このライオの言葉のおかげもあり、私達は泉へ移動することとなる。その道中、私は変態の中の変態として扱われ、あまりいい思いをしなかったが。
何はともあれ、美味しいご飯を食べるために我慢する。だが、まさか泉で思いもしない騒動が起きるとはこの時、私は考えもしなかった。
~次回に続く~
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