おばちゃん、神様に乗って異世界を縦断する

１７：旅は道連れ世はお得だらけ 後編

　どうにかこうにか出発の準備を整えた私達は様々なトラブルに合いながらもどうにか進んでいた。そんな中、テイルキャットという魔物が私達の前に現れる。

　主がその魔物をどうにかしようとアイテムを取り出そうとするが、相手は待ってくれない様子だ。どうなる主！

「シャアーッ！」

　敵意を剥き出しにし、鋭いツメを振り上げて飛びかかっていく。私は咄嗟に彼女を守ろうとしたその瞬間、主はあるものを取り出した。

　それは先端に不思議な塊がついている何かだった。ゆらゆらと揺らし、テイルキャットに見せつけると魔物はそっちへ飛びかかる。

「はーい、たっぷり遊びましょうねぇぇ」

　不思議なことにテイルキャットはその道具目がけて飛んでいた。それも楽しそうな顔をして。時折、尻を振りながら突き出して前傾姿勢を取り突撃していく姿があった。

　それはそれはなかなかに愛らしく、不覚にもかわいいと感じてしまうほどだ。

「はーい、こっちー」

「ニャー！」

「次こっちー」

「ニャー！」

「ほらほら、そんなんじゃあ捕まえられないわよぉぉ」

「ンニャー！」

「やっぱりネコにはネコじゃらしね。ほらほらぁ～」

　最強のハンターとは何なんだろうか。私は主にじゃれつくテイルキャットを見て考えていた。もしかするとどんなことでも全力を尽くすからかもしれない。だから狩りの時も獲物を仕留められるのだろう、と。

　いつしかテイルキャットはおとなしくなり、ゆっくりと主の足下へ近づいていった。そしてゴロゴロと不思議な音を喉から響かせ、身体をこすりつける。それを見た主はテイルキャットを持ち上げ、優しくなで始める。

「かわいいわねぇぇ。えっと、なんだっけ？　ネコちゃんでいいわよね？」

『テイルキャットだ』

「長ったらしい名前ね。よし決めた、この子は今日からキナコよッ！」

『はっ？』

「飼うのよこの子を。このままサヨナラしたらかわいそうだし、何よりお腹を空かせてるじゃない。だから飼うの！」

『いやいや、待て！　主、そいつはとんでもないハンターだぞ！』

「ネコはそうでしょ？　おばちゃんが小さい時に飼ってたネコなんていっつもスズメを捕まえてきてたわよ！　ネズミとかゴキちゃんとか持ってきたこともあったわ。でもそれも大切な思い出よ。それにこの子、アタシとお父ちゃんと正反対でしょ？　かわいそうじゃないの。せっかく出会えたんだし、これも何かの縁よ！　だから飼うのッ！」

『私の話を聞いてくれ。主の世界に似たような生物がいたかもしれないが、それは魔物。つまり危険――』

「飼うからちゃんと責任持って飼うわッ！　いいでしょ神様、この子を狩っても。あ、トイレの躾けもお散歩もしっかりするからぁぁ」

　そうじゃない！　そうじゃないんだ！　それは魔物で主の知る生物とは違うんだ！

　私は必死にそう訴えるが、主は聞いてくれない。まるで子どもを相手にしているような感覚である。

　ああ、このままじゃあ日が暮れてしまう。くぅ、仕方ない。こうなればせめてもの抵抗だ。

『わかった。認めよう』

「ホント！？　ありがとう神様～」

『ただし、ちゃんと躾けるんだ。万が一、人に迷惑をかけるようなことがあったら捨てなさい』

「ちゃんと躾けるわ。よかったわねぇ、キナコちゃーんッ」

『ニャー』

　なんてことだろうか。まさか魔物界のハンターをペットにしてしまうとは。しかも名前までつけるなんて。

　主が名前をつけたことでこのテイルキャットは〈名前持ち〉になってしまったぞ。将来が末恐ろしい。

『けっ、何がキナコだ。いい名前もらいやがって』

　ああ、そういえば先にペットになった魔物がいたな。確かにシロブタなんて名前よりはいいかもしれない。私は個性あふれる名前だから好きであるが。

『どっちが上か下かハッキリつけてやる。おい、キナコ！　俺はお前より先にここにいるからなっ！　ちゃんと敬うんだぞ！』

　シロブタがそんなことを叫んだ瞬間、剥き出しにされた鋭いツメが振り下ろされる。一瞬のことで何が起きたかシロブタはわかっていなかったが、すぐに引っかかれた顔に痛みが走ったのか悶えていた。

『いってぇー！！！』

　こうしてペットナンバーワンの戦いはキナコの勝利でひとまず終わる。初戦を落としたシロブタはというと、とても悔しいのか何度も手を地面に叩きつけていた。

　聖剣はそんな光景を見て笑う。彼女は『くっだらない、くっだらないんだけど』と楽しそうにしていた。私もその感想に同意だよ。

「こら、ちゃんと仲良くしなさい。キナコちゃん、まずは美味しいご飯を食べましょうねぇぇ」

『ニャー』

　こうして我ら一行に新しいペットが加わった。

　どうなるのだろうか、この旅は。

「あれ？　今日って、全然進んでなくね？」

　ライオ、気づくのが遅いぞ。まだ十分の一も進んでないからな。本当、先が思いやられる。