第2章
14:旅のお供にお役立ちアイテムを 前編
豪華な晩ご飯を食べ、それからも騒がしい時間を過ごし朝を迎えた私は大きなアクビをこぼしていた。まさかシロブタがあそこまで不摂生で生活のリズムが滅茶苦茶だとは思ってもいなかったな。主と一緒にシロブタを少しずつ矯正かけていこう。
昨夜のことを思い出しながら一つの決意を固め、私は背筋を伸ばしている主に目を向ける。何やら不思議な動きをしているが、これは一体何なんだろうか。
「おいっちに、さんしぃー、結構バキバキいうわねぇ。やっぱ最近運動不足かしら? なんだかまたお腹が出てきた気がするし、このままじゃあお父ちゃんみたいになっちゃうわぁぁ。そういやお父ちゃん、最近ツーリングに行ってないわね。ライダースーツが入らなくなったからって言ってたけど。あッ、ちょうどいいわ! これを機に一緒にランニングしようかしらッ! いい汗かいて痩せる。うんバッチリなプランねッッッ!」
独り言が長い。いつもこんな風に口を動かしているのか? まあ、主が静かになったらそれはそれで不気味であるが。
それはさておき、行くことになったライオの故郷について調べるとしよう。確か彼の話では故郷はヒューロ地方と言っていたな。ヒューロ地方といえばここから西にある地方でその中心には世界樹があり、あそこには我が配下がそれなりにいる。
そんなことを思い出し、私はさっそく情報を取り寄せてみた。私の呼びかけに応えてくれたその者の情報によると魔王軍の活動はここ最近おとなしいらしく、目立った動きはないようだ。
この情報をそのまま受け取り考えるならば、すぐに何か事件が起きる訳ではなさそうである。水面下で何かをやっているかもしれないが、だとしても行動するなら今しかないだろう。
『主よ、一つ提案がある』
「今忙しいから後にして! ああ、身体が伸びるわぁ。結構バキボキねぇ」
『聞いて欲しい。ライオのために話し合いをするならなおさらなんだ』
「もぉー、うるさいわねぇ。わかった聞いてあげる。それで何? どんなお話してくれるの?」
『ライオの故郷は少し遠い場所にある。みんなで移動するなら三日はかかるだろう。だから旅の準備が必要だ』
「ああ、なるほどね。ちゃんと旅行の準備をしないといけないのね。でもあんまりお金ないし、するにしても安く済ませたいわねぇ」
『それなら当てがある。何、心配することはない。あと主よ、お金もそんなに心配しなくていいぞ』
私は市場に向かうよう促すと主は渋りつつも重たい腰を上げ、動き始める。まだ眠っているシロブタを叩き起こし、出かける準備をして待っていたライオに声をかけ一緒に市場へ向かう。
さて、私の推測が間違っていなければあの店主はまだいるはずだ。もしいたら今回は存分に協力してもらおう。
多くの人々が行き交う大通り。色とりどりのテントが並び、多種多様の人種が交渉し本日もヨークシャン市場は賑やかだ。
私は主に指示をし、昨日食材を購入した店に訪れた。そこは思った通り閉まっており、それを見た主は目を丸くする。
「あら、風邪でも引いたのかしら?」
見当違いなことを主は言い始め、心配なのかテントの中へ入っていく。ライオが思わず主に声をかけようとしたが、私はそれを制止し一緒に中へ入ることを告げた。
ライオは少し顔をしかめたが、私の指示を聞き一緒に中へ入るとその奥で楽しげに談笑する声が聞こえてきた。進むとそこには楽しげに笑う主と店主の姿があり、笑っている主はどこか安心したかのような表情を浮かべている。
「ホント、アンタ面白いな。まさか中に入ってくるなんて思ってもなかったよ」
「風邪じゃなくてよかったわぁ。それで、どうしてお店を閉めてるの?」
「東にいい町があってな、そこで店を開くんだ。といってもまだ計画立てたばっかりなんだけどな。こんな風にやろうと思えたのはアンタのおかげだよ」
「アタシ何にもしてないけど?」
「あ、ああ、そうだな。でもアンタのおかげだよ。ありがとな」
店主はちょっと苦々しい笑顔を浮かべる。まあ、大量に食材を買ったとはいえ金貨一枚を騙し取ったようなものだからな。素直にその理由を教えられないだろう。
とはいえ、彼の夢が進んだのはいいことだ。
「それで、アンタは何しに来たんだ?」
「これから西に行くの。そのために準備が必要だって言われてね。でもアタシ、よくわからなくてねぇ」
「なるほどな。よし、じゃあサービスだ。旅に必要なお得セットを見繕ってやるよ!」
「ホント!? ありがとねぇ、じゃあそれ買うわぁー」
「もういいよ。十分すぎるぐらいだ」
和やかな雰囲気の中、店主はカゴに詰め込んだアイテムを広げ始める。主はその光景を見守りつつ、気になったものを一つ一つ訊ねていく。それは微笑ましい親子のやり取りのようにも見え、私はついつい微笑ましく感じた。
さて、アイテムの見繕いはこれでどうにかなるだろう。
そう考えていると後ろでシロブタがガサガサと何かを漁っていた。
『何をしている?』
『お腹が空いた。食べもんないかなって思ってよー』
『お前なぁー……』
呆れつつ私はシロブタを止めようとした。だが、唐突にシロブタの手が止まる。なぜかゆっくり振り返り、シロブタはこっちに来るように促してきた。
変なものでも見つけたのか?
そんなことを思って移動すると、そこにはまさに変なものがある。それは驚きのものであった。
次回に続く!
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