20:見違えるほどのビフォーアフター 後編
鞘ことカリバーンが泉に落ち、本来の姿を取り戻した。
なぜ姿を変えていたのか。気になっていると彼は語り始める。
『真実の愛が、欲しいんです』
『……はぁ?』
『ぼくは、自分でいうのもなんですけどいい見た目なんですよ。そりゃもう名刀でもナマクラでも目を惹くような容姿で、つまりモテモテなんですよ。でも、ぼくが欲しいのはそんな愛情じゃない。愛が、愛が欲しいんです!』
『そ、そうなのか。だが、その姿を見れば聖剣も少しは考え直すんじゃあ――』
『彼女はいいですね。あの蔑んだ目をぶつけてくれて。いい感じに殴ってくれますし、さっきの一撃はよかったです。ああ、ゾクゾクしましたよ』
変態だ! こいつ、思っていたよりも遙かにヤバい変態だ!
仲間なんて言うんじゃなかった。隣で聞いてた泉の主が引いた目をして私を見つめているよ。
『い、いろいろな者はいますね。ホント、ビックリします。もしかしたら私の知らない世界があって、それを運良く今確認できたのかも』
フォローを入れているがとても気味悪そうにしている! いや待ってくれ、まさかこんなにもヤバい存在だったなんて私もわからなかったんだよ!
『ああ、でももうダメだ。ぼくは元に戻ってしまった。もう、彼女の愛を受け取れない!』
『いや、好意は受け取れるぞ』
『そんなの愛じゃない! もっと、もっと僕を蔑んで欲しい! 真正面から、嫌そうにしながら、どんどん罵声を浴びせて欲しいんだ!』
『そこまでか!?』
ダメだこいつ、本物だ。ああ、もう連れて帰りたくない。ほら、隣にいる泉の主が完全に引いちゃってるじゃないか。
『すごっ、こわっ』
あ、完全にダメだね。
ひとまず、私はこれから彼をどう扱うか考えることにした。一体どうしてこんなことになったのか、ということも一緒に考えてみるが答えなんて見つからない。
まあ、どうしようもないことだけはわかった。だからこのまま彼を連れていくことにしよう。
『ひとまず帰ろう。みんなが待っている』
『いーやーだー! このまま帰ったらご褒美がなくなっちゃう!』
『あれはご褒美なのか!?』
やれやれ、どうしたものか。このままやり取りしていてはラチが明かないぞ。
そう考えていると『ねぇ、誰かいるの?』という声が聞こえてきた。振り返るとそこには聖剣がおり、少しモジモジとしている様子だ。
おそらく突き飛ばしてしまった鞘のことが気になったのだろう。しかし、もう聖剣が知る彼ではない。果たしてどうなるのだろうか?
『どうした? 料理は終わったのか?』
『だいたいは切り終わった。それより、カリバーンいる?』
『ああ、いるぞ。どうしたんだ?』
『その、ちょっとやり過ぎちゃったなって思って。だから、その、えっと……』
どうやら突き飛ばしたことを気にしている様子だ。まあ、いい機会かもしれないな。彼の本来の姿を見てもらおう。
『大丈夫だ、ちゃんと受け取ってくれる』
『そ、そうかな? 悪いことしちゃったし』
『あのくらいどうってことないはずだ』
彼にとってご褒美のようだし。
『ありがと。それより、あいつは?』
聖剣に訊ねられ、私はカリバーンが隠れている草陰を見る。聖剣は急いでそこへ向かい、そして期待通りに大声を上げた。
そう、そこにいるのは聖剣が知る気持ち悪いカリバーンではない。すっかりイケメンになってしまった本来の姿のカリバーンだ。
『だ、誰?』
『あ、あははっ。こ、こんばんはー』
『その声、もしかしてカリバーン!?』
『ち、違うよ! これは、その、呪われた姿なんだ!』
苦し紛れの言葉だった。いや、いくらご褒美がもらえなくなるからってその言い訳はないだろ。
『え、えっと。よくわからないけど、カリバーンなんだね』
『う、うん……』
『そっか。さっきはごめんね、突き飛ばしちゃったりして。やり過ぎちゃったよ』
『ぐっ! い、いや、ぼくが悪いよ。その、ずっと気持ち悪いことしてたんだし』
『あははっ。でもすっかり見違えちゃったね。ところで、どうしてあんなことしてたの? 呪いのせい?』
『そ、それは、その、えーっと……そうです』
『やっぱりそうなんだ。ごめんね、何も知らなくて。カリバーン、また一緒に冒険してくれる? ケンカしちゃうかもしれないけど』
『あ、ああ、よろこんで……』
よくわからないが、無事に仲直りしたようだ。カリバーンはとても悲しそうにしていたが見なかったことにしよう。
何はともあれ、一件落着だ。そう思おう。思わないといけない気がする。
『仲直りしてよかったですね、ぷっ』
泉の主は笑いを堪えていた。
私も赤の他人ならいい肴として聞き、笑っていただろうな。くそ、覚えていろよ。
こうしてカリバーンは本来の姿へ戻る。戻ったのだが、よかったのだろうか?
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