12:おばちゃんの好みが家庭の味 前編
冒険者ギルドの若きギルドマスターを言葉巧みにねじ伏せ、十八プラント金貨というとんでもない大金を手に入れた主はこれまで見たことがない笑顔を浮かべながら市場の真ん中にいた。
異世界の通貨を目にし、呆れかえっていた男性の店へと行き買い物を始める。主のことに気づいた店主が声をかけると、食材がカゴ一杯に入れた彼女はこれ見よがしに金貨を見せつけた。
「ちゃんと手に入れてきたわよ、お・か・ねッ!」
「ちゃんとって、待てよこれ金貨じゃねーか! 一体どこから盗んで――」
「稼いできたに決まってるでしょ。人聞きの悪いこと言わないでよ! それとも何、まさかこれも偽金って言うんじゃないわよねッ!」
「わ、悪い。だけどもう少しよく見せてくれないか。本物かどうかしっかり確かめたいんだ」
「本物だって言ってるでしょ! ったく、疑り深い人ね。でもアンタならマー君と話が合うかもね。あの子ったら結構人を信用しない子でね。おばちゃんが仲良くなった人とケンカして家から追っ払っちゃうし、いいなって思った水晶玉はガラスだって言ってお金を取り上げるし。最近だとスマホにきた宅配メッセージだったかしら。あれに返事しようとしたら詐欺だから返事するなって怒ってきたわ。もう人を信じないって大変よ。でもおばちゃんはマー君のこと信じてるからちょっとケンカした後、すぐに言うことを聞いたわ。そしたら翌日、メッセージを送ってきた詐欺グループが捕まってたわね。ホントマー君って天才ッッッ!」
「なんかよくわかんねーけど、全く関係ない話をしているってことだけはわかったよ!」
店主は非常に呆れているが、それでも主が持つ金貨が気になってしょうがないという様子である。そんな店主を見て主は「仕方ないわね、ちょっとだけよ」と持っていた金貨を手渡す。
受け取った店主は急いでそれを確認し始める。手触りに質感、金貨に描かれている花のデザインに偽金防止として彫られている複雑な文字。思いつくことを確認し、店主はようやく本物だと結論づけた様子だった。
「マ、マジかよ……本物っ!」
「さっきからそう言ってるでしょ。それよりそのお金、使えるの使えないの?」
「つ、使えるに決まってるじゃないですか、奥様ぁー」
店主は手もみしながら主のことを持ち上げ始める。普段、よくても銀貨までしか取り扱わないのだろうな。あからさまに態度を豹変させ、腰を低くしている。
富ある者に貧乏商人は弱い。まさに今、その言葉を目の前にいる二人は体現していた。
「唐突にどうしたのよ、気持ち悪いわね!」
「そんなことを言わないでくださいよ、奥様。あ、それよりあと何を買います?」
「お米あるお米。今晩はチャーハンを作りたいから必要なのよ!」
「ちゃ? あ、ええと、そうですね。米ならラムラ産のものがありますよ」
「ラムラ? 聞いたことがない地名ね。外国?」
「そんなものです。まあ、ちょっと遠い場所から仕入れたものなので少し値が張りますが」
「いくらなのよ? 言っとくけどお金、あまりないからッッッ!」
主の言葉に店主は目を丸くする。そう、主は冒険者ギルドからもらった金貨十八枚の価値をよくわかっていない。ついでをいうとこの世界の通貨に関する仕組みもよくわかっていない。だから金貨十八枚がどれほどの大金なのかもわかっていないのだ。
それに気づいた店主が怪しい笑顔を浮かべる。どうにかお金をむしり取ろうと考えているのだろう。
「そ、それはそれは。大変失礼しました。あ、そうですね。もしよろしければ先ほどの米とそのカゴに入っているものを合わせて金貨五枚でいかがでしょう?」
「ハァ? 五枚も取るの? おばちゃんそんなに持ってないって言ったでしょ!」
「で、では三枚はいかがでしょう? お得ですよ~」
「ダメ、一枚! じゃなきゃ他で買うからね!」
「で、では二枚ならどうですか!? とってもお得ですよ!」
「一枚よ一枚! ダメならいいわッ」
「くぅー、わかりました。では一枚で手を打ちましょう!」
こうして主はあり得ない量の食材と米を手に入れる。こんな抱えきれないほどの食材をどうするのだろうか、と思いつつ店主に目をやった。
彼は金貨一枚しか手に入らなかったことを残念がっているが、それでも大金に違いないため喜んでいる様子でもある。おそらく手にした大金で何かするのだろう。
「さ、帰るわよみんなッ! 今晩はごちそうよぉーッッッ!」
たくさんある食材を分担して私達は運ぶ。途中、シロブタが持たされた食材を全部食べようとしていたが主がゲンコツをしてそれを阻止していた。
こうして私達は食材を手に入れ、冒険者ギルドから教えてもらった宿屋へ入る。宿屋の店主は大量の食材を持った私達を見て驚いていたが、そのおかげかすぐに厨房を貸してくれたのだった。
次回に続く!
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