第6話 命のやりとり
この世では、どうしたって争いが無くなる事が無い。生き残り繋がなければならないという命題がDNAに収斂され、勝手につき動かされているのである
夕暮れ時、私は川の土手の道を走るトレーニングをしていた。
長距離走はやせ衰えていくようで嫌いな為、中距離のダッシュを好んでしていた
中部地方の小都市、大きな市民病院のそばを水は流れる。幅は20m程で水深は30cm以下の小さな川は、清流とどぶ川の中間位の綺麗さだった。
水面から4m上の土手にはしっかりとして走り易い舗装道路が付いていた
住宅地と田舎の境のようで、息抜きができる気持ちの良い場所が私は好きだった。
ひとせい走り、土手を歩いていたその時「ぎゃー、ぎゃー」と4m下の水面からとんでもない叫び声がした
–−−これはアオサギの声だ。いくら縄張り争いでもこんな声を立てたら魚が逃げちまう。良い縄張りも台無しになっちゃうよ。共倒れだ
もう辺りも薄暗い。何があったんだと4m下を覗き込んだ。
意外なものを見た。
橋の上にある街頭に照らされて青白く浮き上がったワシがアオサギをがっしり掴んで、クチバシを突いていた。
アオサギは全く動かなくなっていた
おそらくアオサギに空中から遅いかかったのだろうが、羽音は全く聞こえなかった。フクロウは羽音が聞こえないと言うが、ワシもそうなのか。凄まじい叫び声だけしか聞こえなかった
アオサギだって羽を広げれば1m以上あるのだが、それを凌駕する大きさのワシが圧倒的な強さで君臨し、私の気配を感じている
私は突っ立って見下ろしていた。
恐ろしい迫力だ。
石壁を4mたどり降りて、殺戮の邪魔はできるかもしれない。あくまでも邪魔するのみ、とても勝てる気がしなかった。
そんな邪魔をして、どんな意味があるのかわからない。アオサギだって魚をとっていたんだ。
じっと見ているとワシも気味悪がってどこかへ行ってしまうかもしれない。
そうしたらこのやられているアオサギの命が無駄になってしまう
俺は知らん顔して家路についた。
次の日の朝に早起きをして川へ行ってみると、もう何も残ってはいなかった
川はただ流れていくだけ
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