第7話 はっきりしないが強烈なトラウマ

 昔の思い出をポップに楽しく書こうと思ったが、ある思い出だけはそうはいかず、しかも避けて通れない

 でもやっぱり避けたほうがいいなぁと思いだした瞬間に、この第7話は消えることになります

それまでは記します


 その頃、私は小学2年生で、同じクラスのM君と一緒に遊ぶことも多かった。連れ立って同じクラスの女の子の家に行き、ちょっとしたスペースがある部屋で側転をして3人で遊んだりしていました

私はその頃すでに、側転が得意だったので本当に楽しかった

 また別の日、M君の家にも行った

今から思えば、ものすごい貧乏を滲ませた家で、重たくて埃っぽい木製の引き戸の玄関が印象に残っている

 立て付けが悪い引き戸を引いて、2人で中に入ると、薄暗い狭い部屋でM君のお母さんが寝間着を着て寝ていた。そして私が入ってきたのを感じたのか、体を無理に起こして挨拶をしてくれた。何かの病気で昼間から寝てるんだなと言う印象しかない

 平屋のおそらく借家

これらの感想は大人になってから思えばであって、そのときにはそれほど感じてはいなかった

 思い返せば、このM君はいつもニコニコ笑っていたが、粗末な服を着ていたような気もする

私の家も貧乏で借家であったけど、このM君ほどの貧乏ではなかったと思う。しかし、私がコンプレックスと言うものを感じるのはもっと先の先の話である。小学2年生の私は、コンプレックスを感じるほどには育ってはいなかった


そして小学3年生になるとクラス替えでM君とは違うクラスとなり疎遠となった


そしてある時、ニュースが伝わった

M君一家が亡くなった


どこかの時点で私の頭に、確かに入り込んだ生きる為の指針がある

「人生において、詰んだ状態になってはいけない」

 この "詰む" という言葉の本来は 将棋用語なのだと思う。もうどこにも逃げられず反撃もできない。そんな状態だが私にとっては、どうにも悲劇を回避できない状態を言う


 私は彼が亡くなった時、キョトンとしていたはずだ。しかし、それもホントのところはわからない。思い出は創作され、どの時点の思ったことが思い出になってるのかもよくわからない.

不思議なのは、ある時期においてM君のことを思い出すことがなかった。私が別の学区へ引越して転校したこともあり、中学時代から始まる学生時代にまるで思い出すことが無かった。しかし今ではしょっちゅう思い出す

何かが解禁になった

どこからどこまでがトラウマと言える状態なのだろうか

 

 大人になってから、人生が詰む状態をあの若き日に見たという事実にぞっとした。なにしろ、M君の家に遊びに行ってから亡くなるまで1年経っていないことに気がついたからだ

 

 詰むような状態になってはいけないと言う幼い決意がいつの間にか私の中にあった

 ただ収入が少ないだけだったら何とかなる。しかし、配偶者や自分が病気やその他でどうやっても挽回できない状態。甲斐性がなく、何もかもうまくいかなくなる様な状態、これが詰んだ状態


 もっと公的機関を頼れなかったのか、もっと国や県や市をしゃぶり尽くすようなことができないのか。そういったことができない極端な善人はこうなってしまうのか

これが、私が子供時代から成長するどこかのタイミングで思った事なのだ


 M君のお母さんが、息子の友達が来てくれたと、病をおして体を起こし、挨拶してくれた小学2年のあの日を思い出すと、どうにも涙が止まらない。

 息子を死なす時に感じたであろう無念はいか程だったのか

 もし私が将来、俳優になって涙を流す芝居求められても私は全く困らない、Mくんのお母さんのことを思い出せばいいんだ

 俳優になんかなれないんだけどね


 今の私にやれる事は、あいつのためにも生きることしかない

あいつの死は、はっきりとは言えないが俺の行動をずっと左右している気がする


 自分の貧乏コンプレックスもあっただろうが、私は特に学生時代からお金を増やすことをより考えていくことになる


意外なことに、私は大学へ行かせてもらった

高校は進学校であったが、我が家では私が進学できるのかできないのか、はっきりと話したことが一度も無かった

そんなアバウトな一家だった

今に思えば、それほど貧乏でもなかったと思うが、その時は大学へ行かしてもらうだけのお金があるのか無いのかよくわからないまま受験勉強をしていた。

 進学の可能性があるのかないのか、よく分からない状態で勉強するというのはナンセンスであろう。普通であれば目標を決め、大きな夢を持ちながら受験勉強に執念を持って向かうべきところだ。

 私の成績は決して突出して良いというのではなかったが、微妙に良いのが混乱のもとでもあった

入れるかどうか勝負の国立大を受け、滑り止めの私学を4つ受けた。貧乏人の作戦としては失敗だったことに、国立大を落ちて気が付いた。確実に入れる国立大を受けるべきだったと思う。学費が高い為、おそらく行くことは無いだろうなと思いながら4つも私大を受けるのは滑稽だった

しかも、レベルがアンマッチで、受けた私大は全部合格した

 このうちの1つの受験の朝、電車の所要時間の目算を間違え、受験が失格となるギリギリの試験開始後30分遅刻で席に着いた。

 数学に取り掛かる

 そして結果的に、かなり時間を余らせてテストを終えた。自分の回答に疑問を挟む余地も無かった。どんな入試数学だよと思った。まともに来ていたら更に時間が余ってさぞ退屈だったはずだ


 そして、私はそんな制度があることを知らなかったのだが、入試を受けた1つの私大から学費半額免除の特待生合格という通知が来た。それなら我が家の財政状態でも行けると確信し、そして何の家族会議も開かれずに、なんとなく手続きをして進学した


 大学での試験は学費免除というお金がかかっているので、プロの仕事として勉強を行い、確実に特待生を維持した

 そしてお金を増やすことへの傾注も忘れなかった

そもそも裕福ではないので種銭が無い

そこは、頭を使って打破するしかない。人間、真剣に考えれば打開策はあるものだ。

と言うよりも自動的に奨学金を元手とするしかなかった

弱者の唯一の武器。しかも弱者の奨学金は無利子。それどころか一部は返さなくていいというものだった。

これを資本に回せば、まさに濡れ手に粟


私はいつしか、借金をせず貯金で家を建てなければいけないと考えだした

 そうしないと貧乏が連鎖する


それも老人になってからではだめだ。若いうちにローン無しで家を持たなくてはいけない


 そうしないと貧乏が連鎖する


 自分は貧乏っぽいなぐらいに考えながらも、そこそこ幸せと満足してしまったら子孫に貧乏が連鎖しかねない、それではいつか詰むことになる


貧乏人の私を相手に、N村証券のお姉さんはヨーロッパのファンドを進めてくる


私は数百万円の元手があったが、端数の8万円だけお姉さんの言う通りにしてやり、メインは別に投資した


 数年後、N村証券のお姉さんに言われて預けた8万円は5万円になり、プロだってあてにはならないことをN村証券が手取り足取り教えてくれた

私が選択した「額面割転換社債」の数百万円ではそこそこ儲けさせてもらった

そして、他にもあらゆる手を尽くした。それもしつこく


 学生らしく、夏休み春休みは夜中の工場のバイトで、たらふく稼いだ

長い休み以外はバイトをしない。学校の勉強の邪魔だからだ

 ここまで書くと真面目一辺倒な印象を与えるが、決してそうでは無い。私はファンキーなM君と共に生きているからだ。

 M君の存在を意識していなかったあの時期こそ、私の心の裏では支配的な影響を受けていたのではないのかと思う

 今はしきりと彼を思い出す。学生時代のすっかり忘れていた空白の期間にも彼を思う心が何処かにあったはずだ。完全に無意識の中にしか無かったこの時にこそ本当に彼が私の心の中で生きていたのではないのか。

 思い出の中の映像になってしまった彼を勝手に心の中に引き込み、勝手に2人で生きていたのかもしれない

まさかねとは思う・・・でも言われてみれば


女性との付き合いもそうだった

軽い付き合い始めでは複数が重なったりもしていた。それも仕方がない、M君がいるんだもの。それはM君の分

 こう言っては、さすがに天国のM君が怒ってくるかもしれない

全ては後付けの理解だ

がっつりとした付き合いでは、さすがにそういった同時進行は無かった。と思う


後付けだと何でも関連づける事が可能だ


 読書、ギター、サッカー、ソフトボール、柔道、カヤック、ほんのちょっとサーフィン、スキーと、やたら趣味が広いのも2つの人生を歩んでいるからとも言える

意識はしていなかったけれど、そうなのかもしれない

 高校時代にバク宙とバク転ができたのもニ人だったからなのか

 地獄の練習の柔道部に所属していながら、他校の文芸部に参加できたのもそうかしれない

右組と左組の両方の背負い投げができるのもそうだ。M君とニ人だからだ。でも、そこそこしか勝ち上がれなかったのは私のせいだ


 私の偏差値のレベルが高いんだか低いんだか分からないのも二人だったからだ。私の記憶ではM君の成績は今一つだったが、"あの境遇" というハンデがあるので、本当のポテンシャルは分からない


 どこまでが意識され、どこからか意識されないのか、本当に思ってるのかは自分でもよくわからない


 そして、まぁまぁ若いうちに、ノーローンのような状態で家は建った

風呂が複数あると言う自慢は聞いたことがあるが、それで言うと我家にはトイレが 3つある。これは自慢になるだろうか


玄関は無論、引き戸にはしなかった

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