第9話 メロディーフェア
「小さな恋のメロディー」という古い映画がある。リアルタイムでこの映画を見たわけではないが、何とも言えないドキドキ感があって好きな映画だ
内容としては、小学生位のかわいい男の子と女の子が織り成す淡い恋の物語で、ビージーズというグループのメロディーフェアという主題歌も雰囲気を持っている
私の子供時代に同じような出来事があったかと言えば、そんな事は全くない。私はそんな可愛い子供ではなく、目立つこともなく、モテもしなかった。何よりも引っ込み思案だった
そんな私でも過去をよく思い返すと、この映画とは違うが、味わいのある出来事も確かにあった
私の出来事と思わず、子役のマーク・レスターを思い浮かべて読み進めてください
小学一年生の時、私はある "偉業" を成し遂げた
誰の発案かは覚えていないが、私の誕生会というものを家で開くことになり、好きだった女の子を誘って、"もてなす" ことに成功したのだ。彼女を誘ったその一瞬、その光景を今でも覚えている。引っ込み思案な私が、よくもまあ声をかけられたものだと、快挙としか言いようがない
ナイス ファイト!
そして、鳥の丸焼きを上手く料理したうちの母さんは、グッド・ジョブだ
当時の秘めた情熱は他のエピソードでも、うかがい知ることができる
帰りの会も終わり、帰るという時、私は彼女のランドセルを教室後の置き場所から彼女の机まで誰にも見られずに素早く持ってきてやった。
彼女がふと気がついた。「私のカバン、誰か持ってきてくれたの?」私は「知らない」と惚けた
ほんの小さなイリュージョン
かわいいものだ
意外に行動をする男だったんだな
しかし彼女は後に、転校して去っていった。目の前が真っ暗だ
ほんの小さな恋のメロディ
時は流れて小学校6年生の終わり。私は懲りもせず好きな子がいた。卒業も近くなったからか、その子が気に入っている男の子10人弱の名前が伝わってきた。そしてその中に私の名前もあった。私は思わず "ワーイ" と心の中で叫んだ。
・・・しかし、なんで10人なんだ・・・
小さな恋のメロディーのカケラ
またまた時は流れて中学2年生
この頃私は、迷路にはまっていた
独りよがりな主観ではあるが、小学生の時分には好ましい女の子と嫌な女の子がはっきり分かれていて、ある意味好きな女の子ができやすかった。中学生になると、女性陣は男より大人になって、みんないい人ばかりで素敵になっていった。確かに一番可愛い子っていうのはいたが、一番好きな子っていうのが、どうにもこうにもよくわからくなった
おかしな出来事っていうのは突然起こるものだ
女子と男子が一緒に受ける家庭科の授業が始まる直前、私はKさんの目の前に立ち丸椅子に座ろうとしていた
Kさんは髪型がツインテールで可愛いんだけれど、喜劇ドラマのヒロインのような風情があった。
Kさんは小さなテーブルを挟んで目の前に座っていた。私が腰を下ろそうとしたその刹那、私はなぜか20センチ位前に顔を突き出して座った。彼女の顔が近い。彼女とその隣に座ってた友達も、"アレッ"と言うような顔をした。私は丸椅子のポジションが悪かったとそれとなくアピールして姿勢を正した。
これに関しては、キ○がしたかったと白状するしかない
当時の私に言いたい。「なんだそりゃ・・・」
そんなことをあの時まで思ってなかったのに、授業の直前と言うのに、何故か急に引き込まれてしまった。
男性ホルモンのなせる技か
私はその場をなんとか繕った
この出来事との前後関係が定かではないが、私は机の中にラブレターみたいなものをもらった。内容としては「クラスは違うけど、ずっと見ています」みたいなものだった。
目立ちもせず他のクラスに関わりもない私がこんなものをもらうはずがない。それに、手紙の字がKさんの字に似ている。これはやられている、はめられている。でもいい、心が暖かくなる。騙されたふりをしていよう。Kさんからの種明かしは無かったが、この真偽をはっきりさせる必要もない
成人した後、一度だけKさんと海にドライブに行った。20センチ吸い寄せられてしまったことと、あのラブレターのことは全く忘れていたので聞かなかった。
内気で引っ込み思案だった私も、時間を経て、美しい人に美しいと言って何か問題でもありますか?と開き直るぐらいの男になっていた。
蛇足だが、事実なら全て言って良いというものでは無い。可愛い子に可愛いと言ってはいけない。そんなことを言う男はキモイでしょ、それは節度
Kさんは髪は長いが、もうツインテールではなかった
いろんな話をして最高に楽しかった
彼女がサンダルを手に持ち、中の砂を下に落とした
海からメロディーが聞こえた
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