誰にも言ったことのない記憶が今となってはファンタジーだった話
Guppy of The Zroos
第1話 罠
昔々の話、スズメをとる罠があったと言う。
棒に紐をつけ、その棒でザルを支えてつっかい棒とし、支えたザルの下に米粒を撒いておく。雀が餌に釣られてザルの下に来たところで紐を引いて棒を倒し、ザルをすずめの上に落とす。
雀は逃げ場がなくなり捕まってしまう
この罠が人間用にあったらどうだろう
皆さんはどうかわからないが、私は人間用を見たことがある。
もう何年も前、会社の命を受けて私はベトナムに出張していた。
週の終わりの夜、嵐が来て、私の会社の工場は雨漏する程になったが、次の日の休日は晴天だった。
暑い。
暑くてクラクラする程だったが、Tシャツと短パンで1人灼熱の街へ出た
決して街に慣れているわけではない
見知らぬ街を見てみたかっただけだ
交差点や道路には信号がないので、渡るのが命がけ
車やバイクが途切れないので避けるのは無理。避けるのではない、避けてもらうのだ。
道はバイクの洪水、そんな道の横断では、真っ直ぐ前を向いて一定速度で歩き、バイクの群れたちに避けてもらうのだ
運が悪い人間は生きられない。会社からは1人で出歩くなという注意があった。無理もない、妥当だと私は心底思った
街のはずれとなり、人が少なくなって、海が近くなったのを空気で感じた。大きな川の橋の方向に歩いて行った
橋の上はきっと爽快だと思った。とにかく暑くて頭がぼーっとする
道の横に目をやると地面の砂地からひらひらと紙が見えていた
私は紙を砂から引き出すと、それは100ドル札だった
上に掲げたりして見たが、かなり傷んだ紙質だった。100ドル札など、まじまじとは見た事は今までなかった。
5枚はあった。現地の人が半年近く過ごせるお金だ
頭が暑さでぼーっとする中、これは昨日の嵐で流されたお金だと結論づけた
そう判断したと言うよりも、あまりの暑さでそう感じとったに近い
あたりに誰もいない。交番に届けようにもベトナムの警察ってどこにあるんだ、と見当もつかない
暑さで視界がぼやけていた中、私が結論づけたやるべき行動は、元に戻して埋めておこうというもの
手早く元のように紙幣の下半分を埋めると、重い足取りで暑さの中を、遠くの大きな橋を目標に歩き出した
俺ははっと気がついた。こちらをじっと見ている男がいた。バイクにまたがっている。
何の用もないようなスペースに1台だけバイクが止まっている
じっと見ていたが、視線を伏せたりしている
そこで俺は更に気がついた。ぼーっとしている中でも気がついた。戦慄が走った
俺はスズメの罠のザルの下をすーっと抜けたんだ。あのバイクの男が紐を持っていた。紐を引くチャンスを与えず、俺はザルの下をすーっと通り過ぎた
もしあの100ドル札を懐に入れていたら、奴は紐を引き、棒を倒して、見えないザルは俺の頭の上に落ちてきたはずだ
あのバイクに乗ったみすぼらしい兄ちゃんは警察か、公安関係か、もしくはギャングか、いずれにしても逃げられないトラブルとなっていた。
私の誠実さに乾杯だ
1人で外出しちゃいかん
人間用の罠ってあるのだな
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