CHAPTER.12 彼を知り己を知れば百戦殆からず

魔女たちとプロ子の戦いが終わって10分ほど経った後。

プロ子がようやく立てるようになり、地に伏せられた時に付いた汚れを手で払っていると、誉が走ってきた。


「おい!大丈夫か!?」


似合わない心配そうな顔をしながら走ってくる誉を見て、プロ子は笑って無事を伝える。


「大丈夫、大丈夫。それより、逃がしちゃった」

「いや、そんなん別にええねん。それよりも、ホンマに怪我とか無いんやな?」


不安げな顔で誉は私に問い詰める。


「大丈夫。私、強いからさ」


えっへん、と胸を張ったプロ子を見て、誉はホッとしたような顔になった。

プロ子は、今、もう一人のアンドロイドの話はしないことにした。ただでさえ母のことがある。これ以上、誉に心労をかけたくなかったからだった。


「ふぅー、良かった。ほな、もう帰ろ」

「えっ、魔女たち逃がしておくの?それに、私の方に来たの5人だけだったけど、あと一人はどうしたの?」


プロ子は戦闘中もずっと気にかかっていたことを聞いた。


「ええねん、ええねん。どのみち、プロ子がここまで厳しい戦いをせざるを得んねんやったら、今の俺らには無理や。それに、もう一人の魔女も今はこの場におらんらしいし」


そこまで言って、誉は背中を向けて歩き出したので、プロ子も慌てて後を追う。


「あ、あとさ。街の皆とかおかんのこと襲ってる奴の場所、分かったぞ」


嬉しそうに誉は振り向いてそう言った。


「え、分かったの!良かった。じゃあしっかり今日は休んで、明日突撃しよっか!」

「そうやで、だから今日はもう帰ろ」


うん!と頷こうとしたプロ子だったがあることを思い出して、立ち止まった。


「あ、このままじゃダメだった。ほら、こんなに痕跡残したままじゃ、帰れないよ。元に戻すから、教会の前の公園で待ってて」


そう言ってプロ子は背後の路地裏の惨状を指した。


「あーね、俺おったら邪魔なんか。じゃあ先行って待っとくけど。あんま無理すんなよ」




プロ子と別れ、公園に着いた誉は「Emi」に電話をした。


「……あぁ、今晩やな。……ん? 流石に不安?まぁ大丈夫やろ、アイツのことやし。……おう、よろしくな」


電話を切って、一息つく。

疲れた表情でベンチに座って、遊ぶ子供を眺める誉は仕事をリストラされて行き場のないサラリーマンのようだった。


「ちょっと、キミこそ大丈夫?」


いつの間にか後ろに来ていたプロ子が心配そうにする。


「いやぁ、流石に疲れたわ。ていうか、心配してくれてんの?」

「当たり前でしょ、私の大事なパートナーなんだからさ」


プロ子の実直な言葉に誉は少しドキッとした……が直ぐに首を振る。


「……そうやな。じゃ、帰ろーか」




翌日の月曜日の朝。

学校を休む連絡をした誉はプロ子と、ある場所に向かって町外れの左右に工場が立ち並ぶ道を歩いていた。


「ねぇ、どこに向かってるの?」


プロ子が不安そうに聞く。それもそのはずだ。プロ子はモルフェウスの根城に行くとだけ聞かされ、それがどこかは聞かされていなかったからだ。


「……町外れの工場や。奴はそこにおるらしい」

「ふぅーん、じゃもうすぐだね」


その会話から約2分後、二人は目的地に着いた。錆び付いた大きな両開きのドアの前で、言葉を交わす。


「あ、そういえばさ。昨日なんで電気欲しがらんかったん?」

「……あぁ〜、そこまで疲れた訳じゃなかったからね。欲しいか欲しくないか、で言ったら勿論欲しいけどね」

「……ふぅーん。ま、いいや。ドア開けんで」


意図が読めないため息をついて誉は、鋼鉄のドアを開けた。

その時だった。


「っ何!?」


アニメでしか見た事ないような、はっきりとした虹色の光が二人を包んだ。

そして二人の意識は飛んだ。




「……いてて」


私は起き上がって、周りを見渡した。

目に映る光景は、現実とは思えないものだった。

真っ暗な宇宙のような場所に、私たちは浮いている。


「誉!起きて!っ嵌められた!」


おそらく、これは……モルフェウスの能力。魔女たちと手を組んでたんだ!私は、一瞬にしてそれに気付いて隣で寝ているはずの誉を見た。

しかし、そこで寝ているはずの誉は居なかった。

その代わりに、後ろから誉は現れた。


「遅かったな、起きんのが」


いいや、誉だけじゃない。続々と人影が、モルフェウスの作った精神世界に姿を現す。


「誉っ 、これはどういうこと?」

「あんま、とぼけんなや。まぁ、そんな顔せんと、ゆっくりと答え合わせと行こうやないか」


誉は膝を着いている私を見下ろして、笑ってこう言った。


「なぁ?偽物さんよ」

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