CHAPTER.12 想像力は知識よりも重要である
「魔女のみなさん、揃ったみたいですね。まぁ、エメさんは最初から居たんですが」
誉は通された円形の机が中央に占める会議室で、水の魔女に呼ばれ集まった魔女達を迎え入れた。エメの姿に擬態しているデブは誉のすぐ後ろに控えている。
「……うざ。誰、こいつ」
「言わしときな、向こうも正面戦闘した時のリスクも読めない馬鹿じゃないだろうし」
「どうでもいぃー、早く部屋に帰りたいんだけど」
「
思い思いに魔女たちは誉に言葉を吐く。
「えーっと、水の魔女さん。皆さんを紹介してくれますか」
そんな、魔女たちの様子に誉は苦笑しつつそう頼んだ。
「水の魔女さん、じゃなくて
どうして私が紹介しなきゃいけないの、と言いたげにマノンはため息をつきながら、しかし人質があるために他の魔女の紹介をしぶしぶ始めた。
「一番右のなが~い黒髪のちっちゃい子が、
「……小さくない。呪い殺すぞ」
ちっちゃい、と紹介されたのが気に入らなかったのか、それとも天性のものなのか、言葉数少なくファイエットは毒を吐いた。
「そのお嬢さんがファイエットさんか、よろしくお願いします」
誉は誉でニコニコと人当たりが良いように見える笑みを浮かべて挨拶する。
「そしてその左の綺麗な赤髪のお姉さんは、二ネット。
「一つ言っとくけど、私はお前がエメを洗脳出来るほどの力があるとは思えないけどね。魔力量も0なのか測れないし」
二ネットは疑いを隠さずに誉に言った。
「まぁまぁ、その話は後にしましょうよ。今はとりあえず、挨拶の時間ですから。よろしくお願いしますね、二ネットさん」
「その左の金髪のだるそ~にしてるのが、
「早く部屋に戻りたい~」
自己紹介の流れなど聞いてなかったかのように自分の欲望だけを彼女はさらけ出した。いや、これが彼女の本質を表しているという点では、自己紹介なのかもしれないが。
「すみません、部屋から出してしまって。直ぐに帰れると思うから、もうちょっと我慢して貰えますか、エレーヌさん」
「で、最後に、緑の髪の毛の彼女はシルヴィ。
「
冷たい目で誉をシルヴィは見つめた。
「怖いなぁ、シルヴィさん。でも、僕も十分母なる大地のありがたみは知ってると思いますけどね」
「じゃあ、自己紹介も済んだところで……。って僕の自己紹介がまだでした。でも、その前に二ネットさんの疑念を解消しないといけませんね」
誉のその言葉と同時に、さっきまで気を抜いていたように見える魔女達の目が光った。
「アンタの魔力を調べたが、魔力は一切感知されない」
「そうですね。マノンさんには見せたんですけど……そうだ。どうせなら他の魔法を見せましょうか」
「他の魔法?」
「ただの手品だろ? 魔力無いくせに」
マノンは興味深そうに聞き、二ネットは疑念を口にした。
それ以外の魔女は黙って興味無さげにしている。
「そうそう、貴方にはエメを操っているとこしか見せてなかったですよね? だからもっと分かりやすい魔法を見せましょう。皆さんも知っている魔法。ただ、システムは少し違うようですけど」
「システム?」
「『
二ネットの問いを無視して、誉は詠唱を始めた。それは、戦闘に慣れている魔女たちの毛が逆立つほどに厳かで禍々しい空気で部屋を満たす。
「『
詠唱の圧が空間を圧迫し、空気が、地面が、部屋の中の何もかもが揺れ始める。
「……気持ち悪」
「もうっ、なんなの!?」
「怖いな~、帰りたいなぁ」
「どうやら、本当に異質な者だったみたいだね」
「大地が泣いてる……いや、泣いてない?」
思い思いに魔女たちが感想を口にする。ただ、未知の魔法に対しての恐れと好奇心が顔に出ていた所は同じだった。
「『
誉が詠唱を終えたのと同時に、デブは地面の震えを止め、机と同化させておいたエメが作った二対の人形を動かした。
デブは、人形をゆっくり円卓の中心に入れながらも、誉に驚愕していた。
誉の詠唱は全て演技なのだ。それを分かっているデブ自身すらも、何かが起きる予感がした。それほどの雰囲気を纏った鬼気迫る演技をしていたのだった。
「それはエメの『傀儡之舞踊』じゃ……」
二ネットが驚きを隠せず目を丸くして言った。
「そうです、僕もエメさんの『傀儡之舞踊』を見た時はびっくりしましたよ。ただ、原理は根本的に違うんです」
魔女たちは表面上は眉をひそめ険しい面つらをしているが、目がらんらんと輝き、興味津々なのを隠しきれていなかった。
「貴方たちの魔法、フランスが起源ですよね? そこに皆さんが日本の呪術的要素を後から加えた。と踏んでるんですが、どうでしょうか?」
「……よく分かったね。それともそのエメに聞いたのかい?」
誉の後ろを顎で指して二ネットはそう言った。
「少し魔法を観察すれば分かる事ですよ。しかし、僕の魔法は全然違います。端的に言うと……異世界が由来なんです」
「異世界!?」
「……噂程度にはあるな。異世界ゲートの存在」
疑いの目を向けるマノンに、ファイエットはそう言い、そんなことも知らないのか? とマノンを馬鹿にした。
「そういうことです。さて、じゃあ本題に入りましょうか。僕のお願いはたった二つ。一つ目はちょっとした質問」
そう言った途端エレーヌは口を開いた。
「質も~ん? じゃあ、一人でいいじゃん。帰ろ~っと」
「エレーヌさん、僕は
「はぁ~、ですます口調の癖に脅しかよ」
エレーヌは不機嫌そうに下を向いた。
「聞きたいのは、この街で起きてる異変についてなんですけど」
「最近現れたドッペルゲンガーの話かい? 悪いが、私等も分からないよ。なにぶん一回しか観測出来てないからね」
「……いいや、それでは無くてですね。最近、街中の人間に精神干渉をしてる方で」
「あぁ、モルフェウスかい。それなら、知ってるよ」
軽い口調で二ネットはそう言った。
「私らもあいつには困ってるんだ。そうだ、うちのエメで良けりゃ手伝わせるよ。夢に侵入出来るからね」
「おー、良いじゃん。エメも頭を抱えてたしね~」
「ちょっと二人とも正気!? こんな怪しい奴に協力するの!?」
二ネットと、それに同意するエレーヌにマノンはそう言った。
「協力せざるを得ないだろ……馬鹿か?」
「……不承不承」
ファイエットとシルヴィも二ネットに賛同する。
「もー……みんながそう言うなら仕方ないけどさぁ」
ほかの四人に諭されマノンも渋々引き下がる。
「助かります。あ、もう一回二ネットさん、さっきの言葉言って貰えますか? 正気に戻したエメさんを説得するのに録音しときたくて」
「ふん、抜かりないね。エメをあんたに貸すよ。はい、これでいいかい?」
「えぇ、有難うございます。しかし、困ってるとは?」
「モルフェウスの奴が分別なく精神を食うせいでうちの信者もけっこうやられてんのさ」
「……
本当に迷惑そうな顔をして、二ネットとシルヴィはモルフェウスについて語る。
「では、モルフェウスに関してはコチラで対応しておきます。そしてもう一つのお願いなんですが、皆さんにある場所を調べて欲しいんです」
「ある場所? 一体何処っていうのよ、私たち全員で調べて欲しいなんて」
「いや、場所自体はそこまで特別じゃないんです、この協会の裏。そこにですね、次元の歪み? みたいなものが出来てるんです」
「ふん、調べてみる価値はありそうだね」
二ネットと同様に他の魔女も興味が惹かれたようで、乗り気だった。
「じゃ、早速頼みました。僕はここで待っておくので。あ、エメさんはこっちで預かっておきますね」
誉がそう言うと、魔女たちは足で床をバン、と踏み鳴らした。たちまちに、部屋は各魔女の足元に現れた魔法陣の光で満たされる。
「帰ったらエメを返してよ!」
マノンは最後にそれだけ言って、魔法陣の中に沈んで行った。
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