CHAPTER.2 天分は持って生まれるもの
「ほな今日の放課後は部活行かれへんなぁ」
プロ子と出会った翌日の朝。
俺は制服のボタンを止めながら、今日の放課後の話をする。プロ子は人間の姿になって、俺の机を物色していた。
「うーん……部活って6時までだっけ?」
「そうやな、えらい長いやろ」
「でも嫌じゃないんでしょ? キミは心から演劇が好きだからね」
プロ子らペンをくるくると回しながら、そんな小っ恥ずかしいことを言ってくる。
「…っ俺のことはええねん。で、俺史上初の
「アリメンタムね。キミはまだ捕獲初心者だから、簡単なターゲットを選んでおいたよ」
それは素直にありがたい話だ。まだまだ勝手も分からないし。
「今回のターゲットは、ルダス星人の
「ちょ、デブて。デブはあかんやろ、仮にデブやとしても」
今どきそういうの厳しいねんから、っていうメタ発言は胸の奥に閉まっとくが俺はそれでもツッコんでしまう。
「仕方ないんだよ。ルダス星人はね、生きるために
「じゃ余計意味わからんな。食べへんねんやったらデブにはならんやろ」
違う、違う、そうじゃない、とプロ子は首を振った。
「うーんとね、彼らには個々の名前なんて無いの。でも別に困らないんだ。何故かルダス星人同士では、名前が無くてもコミュニケーションが取れるから」
「なるほど。だから、俺らは『デブ』みたいな見た目でしか呼びようがないんか」
さらに、とプロ子は話を続ける。
「ルダス星人は高度な擬態能力を持ってる。その場に一番馴染める姿となって生活が可能で、食事の代わりに娯楽で生命を維持出来るんだって。原理は私にも分からないんだけどね」
娯楽だけで生命を維持出来る。その生活を俺は想像してみる。少なくとも勉強なんてしなくて良いってことで……ちょっと羨ましいかもなあ。
「そんで、俺の仕事は?」
「えっとね。昨晩の状態、私の
「なるほど?」
「だから私は
つまり、俺の仕事はプロ子が戦闘出来る場所までデブを誘導するってことかと、俺は噛み砕く。
「でもどうやって人間と見分けんの? 姿は一緒なんやろ?」
「アリメンタムはルールを破ったものたちって言ったでしょ、じゃあルールってどんなのだと思う?」
昨日から話してて気付いたことだが、プロ子は直ぐに質問に答えない。毎回こんな手順を踏んでから答えを教える。
「う~ん、人に危害を加えるとか?」
「うん、それも一つ。でもね、そんなのは殆ど居ない。最も破りがちなルール、それは自分の存在をバラしてしまうことなの」
ん? そんなアホなことする奴がそんなに居るんか?
怪訝な顔をしていると、プロ子はそれを察したのか補足する。
「分からないでしょ。でもね、想像してみて。この人間社会に入った瞬間から、キミをキミたらしめる全てを捨てなければならないの。そして、四六時中永遠に別人を演じ続ける。休みのない演劇ほど辛いものは無いでしょ?」
俺は想像するまでも無くその辛さを知っていた。
「ま、それは~そうか。自分が
「でしょ。つまり今回のデブも、自分が人間じゃないってことを何となくでも
「なるほどなぁ、じゃそろそろ学校行くわ。また、放課後な」
◇◇◇
学校が終わり放課後、俺とプロ子はある場所に向かって歩いていた。何故か、行先は教えて貰えなかったがもうすぐ着くとのことだ。
なんとなく夕焼けを見上げていると、突然、タタタッ── と前に出てプロ子は振り返る。
「はい! ここが今回の
「ちょっとちゃうな、使い方。出来れば、
というか、目の前の建物は一般的なマンションに見えた。
「え、ここ?」
「うん、ここはね。裏カジノ」
軽くプロ子はいたずらっぽく笑う。
「えぇ~、裏カジノ……」
「キミが知らないことが沢山あるって言ったでしょ」
「いや、裏カジノの存在は知ってたけど。でも、俺どう見たかて高校生やん、入られへんくない?」
「そこは気合いで。ただね、オーナー含め全員が人外、特にルダス星人がほとんどの客だし、セキュリティは凄い甘いの。警察も分かってて手を出さないしね。それでさ、どうする? 私もプランが無いわけではないけど……」
「んや、俺も作戦があるから。それでさ…プロ子…」
聞きたかったことを耳打ちすると、プロ子は不思議そうに出来ると言ってくれた。その他にも幾つか今回の計画に必要なことを話した。
「ほな行こか~」
俺はあえて気楽さを口に出した。
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