第19話 アルトは久しぶりの再会を果たす

「娘が世話になったようだね。アルト君」

「い、いえそれほどでも」

「報告を聞く限りだと命を助けられたみたいだ。礼を言おう」


 威圧感を放ちながら目の前の茶髪の男性はソファーに座ったままそう言った。


 高い身長の彼はこの家の現当主。

 僕の記憶が正しければいつもアイリや奥さんに振り回されている苦労人。けれど娘を溺愛できあいする変わった人、だった気がする。

 前にあった時と少し雰囲気がかわったかな。

 細身な体をしているけれど、前よりも放たれる威圧感がすごい。


 ここはガンフィールド公爵領の領都りょうとで領主てい

 つまるところアイリの家になる。

 豪華絢爛けんらんなレギナンス伯爵邸とは違い、きらびやかだけどどこかつつましい印象を受ける館。


 アイリに引きられながら久々にきたんだけど、即座にアイリの父『エリック・ガンフィールド』様に呼び出されてここ応接室にいる。


「さて色々と聞きたいのだが……、一先ずレギナンス伯爵家を勘当かんどうされた、というのは本当かい? 」


 その言葉に頷き肯定こうていする。


「はは。そうかそうか。ならば今君はレギナンス伯爵家とは無関係、ということだな? 」

「ええ」

「それは良かった。実の所お爺様と話していてアルト君をこっちで引き取らないか話が出てね。長子ちょうしと言うこともありあきらめたんだが……」

「もう貴族のゴタゴタは勘弁かんべんですよ」

「そうか。まぁ気が向いたら行ってくれ。我ら軍部は実力者を歓迎かんげいする」


 残念そうに言うエリック様の申し出をことわった。

 強引に来られなくてよかったと思うも、何かと理由をつけて引っ張られそうで怖い。


 貴族のゴタゴタに嫌気いやけがさしているのは本当なのだが、今の冒険者生活を楽しんでいるのも理由の一つ。

 結局の所普通に過ごせるのが一番いいのだ。


「一先ず順序良く説明してくれ。私達は君が魔の森に追いやられた所までしか知らないんだ」


 そう言うエリック様に僕は魔の森での出来事を話した。

 説明している途中、エリック様は首をかしげた。


「なるほど。それで今は冒険者だと。しかし、あの魔境まきょうをどうやって生き残ったんだい? 確か、聞くところによるとアルト君のスキルは光球ライトしか使えなかったはずなのだが」

「師匠、いえカイ・ガンフィールド様の御指導の賜物たまものでした」

「しかしそれだけで生き残るのは不可能だ」

「それは——」


 当分会っていないとはいえお互いに諜報ちょうほうが行き来している。それに加えて定期的に行われる茶会のようなものもあった。

 直接話はしないものの情報はそれなりに入って来る。

 よってエリック様が僕のスキル『叡智の魔導書メーティス』を知っているのは自然なことだ。


 エリック様に魔石の事を話す。すると少し考え込んでしまった。


「魔石を媒体ばいたいとしたスキルの覚醒、か。確かにそれは予想外だな」

「エリック様でも聞いたことがないのでしょうか? 」

「聞いたことがないな。学術都市に行けば何かわかるかもしれないが、私はそっちはめっきりだ」


 肩をすくませそう言った。


 叡智の魔導書メーティスの本当の能力は危険だ。

 なので隠しながら常識の範囲で伝えたが納得してもらえたようだ。


「ということはこの前報告にあった『アルト』という冒険者は……」

「僕のことです」

「アルトという名前はよくある名前だから気にしなかったけど、まさか君だとは思わなかったよ」


 口がかわいたのか紅茶を口にするエリック様。

 静かにカップを置いて僕をみた。


「とするとアランの町を何度も助けてもらったみたいだ。かさねて礼を言おう」

「いえそれほどでも——」

「しかし娘との結婚は認めん!!! 」

「いえ何でそんな話になるんですかっ! 」


 いきなりとんでもない事を言い出すエリック様にツッコむ。

 アイリの事になるととんでもない行動に出るのは毎回の事だが、今回ばかりな何でそんな考えに行きついたのかわからない。

 頭を痛めているとエリック様が更に続けた。


「思えば昔からそうだ。いつもアルト君はアイリといちゃいちゃと」

「していません!!! 」

「私だってアイリといちゃいちゃしたいっ! 」


 心の中の言葉を口にするエリック様に溜息をつく。

 アイリもそうだが真っすぐな性格をしているのは、もしかしてこの家の家風かふうのようなものなのだろうか。

 そう思っていると「バン! 」と応接室の扉が開けられる音が聞こえた。


「アイリとヘリアか。どうしたんだ? 今はアルト君と話をしているのだが」

「父上。オレは冒険者になる!!! 」

「「……え??? 」」


 その言葉に驚く僕とエリック様。

 しかしエリック様はすぐに席を立ち「ダメだ」と言った。

 彼女の突拍子とっぴょうしもない行動は毎回の事だが、何故に冒険者?


「危険が多すぎる」

「それは騎士団も同じでは? 」


 エリック様が引き留めようとするとエリック様の妻『ヘリア・ガンフィールド』様が前に出た。

 ヘリア様が出て来たことでエリック様がたじろいだ。


 エリック様は赤く長い髪をもつヘリア様に頭は上がらない。

 そんな味方を連れて来たところからアイリが本気で冒険者業をしようとしていることがわかった。


 だがエリック様も負けてはいられない。

 ぐっと拳を握り前を向き一歩前に出た。


「確かに、騎士団にも危険が多い。だが、だからと言って一介いっかいの貴族子女が冒険者をすることは無いだろ? 」

「冒険者でないにしろ、貴族子女とて仕事にくことは多々あります。見識けんしきを広めるという意味で冒険者をするのは良いかと思います。剣士としての実力は十分ですし、それにお爺様も一時期冒険者をしておりましたので問題はないと。そしてなによりアルト君と共にいればよい刺激になると思いますが」


 そう言いチラリと目線をこちらに送って来た。

 一瞬柔和にゅうわな笑みを浮かべるも、すぐに表情を戻してエリック様に近寄るヘリア様。

 しかしエリック様も引き下がらない。


「こ、婚期こんきはどうするつもりだ? このままでは……ぐふぁ! 」


 それを口にした瞬間、ヘリア様の渾身こんしんの一撃がエリック様の鳩尾みぞおちにめりこんだ。

 体をくの字に曲げながら前に倒れる。

 言ってはいけない言葉だったようだ。


 そしてエリック様を受け止めたヘリア様は僕を見た。


「アルト君。お久しぶりですね」

「お、お久しぶりでございます! 」


 起立きりつし背筋を伸ばして答えた。

 特に威圧感を放っているわけではないが、この人を前にすると背筋が伸びる。


もる話もありますが、一先ずお仲間と一緒に今晩は泊って行きなさい」

「イエス。マム!!! 」


 こうして僕は久しぶりにガンフィールド公爵邸に泊ることとなった。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


 面白く感じていただければ、是非とも「フォロー」や目次下部にある「★評価」、よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る