第18話 アルトは公爵家子女を連れてギルドマスターに報告する

「……幼馴染? 」

「ああ。そうだ」


 冒険者ギルドの応接おうせつ室。ここで僕とレナ、そしてアイリはギルドマスターのマルクさんを待っていた。

 どうやら今日は多忙たぼうなようで、まだ仕事が終わらないとの事。


 受付嬢のリカさんに「時間が取れるようになるまで応接室で待っているように」と言われてここにいる。

 僕とレナがアイリを連れて冒険者ギルドに入った時の受付嬢リカさんのさとった表情は忘れられない。


「ということはアルト様は貴族だったのですね」

「いや貴族ではなく貴族子息だけど」


 しかも追放されたから『元』ね、と付け加える。

 丁度ちょうど良かったので魔の森の事も一緒に話す。


「では師匠と山もりというのは……」

「ごめん。嘘なんだ」


 そうですか、とレナが呟き顔をせた。

 彼女からすれば裏切られた気持ちなのかもしれない。

 少し罪悪感にかられながらもじっとしていると、レナが顔を上げていった。


「山籠もりならぬ森籠りですか。お強いわけです」

「あれ? 怒らないの? 」

「混乱を避けるための必要な嘘ですので。私が怒る理由にはなりません」


 レナはニコリと笑みを浮かべてそう言った。

 よかった。

 そう安堵あんどしているとレナが少しピリッとした雰囲気を出してきた。


「でそちらの幼馴染様……アイリ・ガンフィールド様ですが」

「レナとやら。お前はアルトの友人なのだろ? ならばオレのことは『アイリ』で良いぞ」

「え? しかし……」

「オレが構わないと言ったら構わない」

あきらめろレナ。こいつは言い出したら引かない」


 僕がそう言うと何度か口をパクパクさせて一度「コホン」と咳払いをしてアイリに向かった。


「幼馴染、ということでしたが婚約者か何かで? 」

「いや違う」

即答そくとうしなくても」


 事実だから仕方ない。


「確かにアイリとは同じ師をあおいだ中だが婚約者じゃない。加えるのなら恋人でもない」


 僕がそう言うとレナから「そうですか」と、どこか安堵したような声が聞こえて来た。

 何故安堵するのかはわからないが二人だけのパーティー。ギスギスするのはよくない。だから誤解があったらいけないので付け加えたのだけれど、成功したみたいだ。


 しかし逆にアイリから不穏ふおんな雰囲気を感じる。

 知っている。

 この雰囲気は「怒っている時」の雰囲気だ。

 今アイリの方を見るのはよくない。振り向かず何も言わず、聞かずにやり過ごすのが一番だろう。


 少し気まずい雰囲気が流れる中、いきなり「バン! 」と扉が開いた。


「わりぃわりぃ。仕事が立て込んでて」


 マルクさんはそう言いながらソファーに座ろうとする。

 そして僕の隣を見て固まった。


「ア、アイリ様?! なんでこんなところに?! 」


 硬直が解けたマルクさんが叫ぶように言う。

 しかしアイリはさも当然かのように答えた。


「いやなに。幼馴染で友人のアルトに助けられたところだ。その礼を言うのと、そこにいた魔物の情報を渡そうと思ったのだが、不都合か? 」

「いえそのようなことは……って幼馴染? 」


 ギルマスも『幼馴染』と言う言葉に反応し首を傾げた。

 本日二度目になる説明を行って納得してもらう。


「まさかレギナンス伯爵家の長男だったとは」

「追放されましたけど」


 来た時よりも疲れた顔でため息交じりに言うマルクさん。

 何度も誤解を解くように訂正ていせいするが、何故に皆直そうとしない!


「まぁ良い。どうせ細かい事を考えても俺にはわからねぇ」


 いやそれはギルドマスターとしてどうなのだろうか。


「で魔物の事なんだが」

「それは私から」


 そう言いアイリがマルクさんに向く。

 そしてどのような戦いだったか説明をした。


「突然変異らしきオーガに魔眼持ちの巨大なオーガ。それに異種族をもまとめる指揮官系の魔物、か」


 アイリの言葉を纏めながらマルクさんが呟いた。

 魔眼持ちのオーガ。これは知らなかった。

 あの大きなオーガらしいのだけれど、何も知らずに倒してしまった。

 僕が思っていた以上に厄介やっかいな集団だったみたいだ。


「でそれをアルトがめ上げたと」

「その通りだ」

「いやまて。間違ってはないけど、言い方がおかしい」


 何ととげのある言い方だろうか。

 抗議の目線を送りるとマルクさんがこっちを向いた。


「まぁ結果としては良かったんだが……俺前に言ったよな? 」

「な、何をでしょう? 」

「報告してから行動してくれと」


 覚えている。

 けれど今回は明らかな非常状態だったわけで。


「確かに今回は良かった。お前達の非常識さも慣れて来た。非常状態ってのもわかる。だが可能な限り自重じちょうしてくれ」

善処ぜんしょいたします」

「そこは約束してくれ」


 と溜息をつきながら続けた。


「で今の森の状況、どう思いますか? 赤き剣豪スカーレット殿? 」


 ギルマスの言葉を受けてアイリは——アイリには似合わない、あごに手をやるポーズをしながら考えた。

 僕の目線に気が付いたのか体を突き刺すような威圧感を放つ。

 それを慣れたように受け流して彼女の言葉を待った。


「……確かに異常状態と呼べるが、魔眼持ちもや突然変異の魔物の発生は過去に例がある。魔の森全体の変化というには、いささか弱すぎる」

「確かに。ならば冒険者ギルドとしては要警戒を続けましょう。申し訳ないですがご領主に伝えていただいても? 」

「分かった。父上にはそう伝えておこう」


 アイリとギルマスの話は終わったようだ。

 俺達は部屋を出て一階へ向かう。

 周りから奇異きいな目線を受けながらも外に出た。


「さて宿にでもかえ……。放してくれないか? アイリ」

「オレの記憶が正しければ我が幼馴染は頭が良かったと記憶している。だが、ついさっきオレが言ったことを忘れていることを考えると、魔の森生活が長くて残念な頭になったようだ。なげかわしい」

「誰が残念な頭だ! ガンフィールド公爵家になんて行きたいはずがないだろう?! 」


 俺がそう言うとアイリがニヤリと笑みを浮かべた。

 しまった。口車くちぐるまに乗ってしまった!


「覚えているじゃないか。なら行こうか」

「嫌だ! 行きたくない! 師匠にボコボコにされるのは勘弁かんべんだ! 」

「そんなことはもうしないと思うが」


 アイリがそう言いながら僕を引きる。

 レナもついて来たが少し珍しいものをみるような目でこちらを見ていた。

 見ているだけならば、助けてほしい。


 アイリは逃げようとする僕を気にせず引き寄せる。

 これが魔法使いと剣士の力の差かっ!


 結局、僕の抵抗むなしく結局馬車に詰め込まれた。

 そしてそのままガンフィールド公爵ていに連れ去られるのであった。

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