第24話 人類はまた一歩進化しました

「まずは。魔物探知ディテクト・モンスター


 魔法で魔物を探知する。

 悪魔は魔物を引き寄せると聞く。

 この火事もそうだが、領都の被害は魔物による可能性もあるだろうから。


 と思っていると引っ掛かる。


「多いな」

「どのくらいだ? 」

「この正面に、数十」


 アイリの言葉に僕が答える。

 すると師匠の笑い声が聞こえて来た。


「倒しがいがあるの」

「笑い事じゃありませんよ」

「わかっとる。じゃが暗い雰囲気を出しとっても状況は改善かいぜんせん! 」

「数が多いのならば私が」


 レナが一歩前に出て僕達の方を向いた。


「皆さん、剣を出してください」


 レナの言葉に応じてアイリと師匠は剣を抜いた。


「では行きます。付与エンチャント: 上位聖光アークホーリー聖鎧ホーリーアーマー

「おお! 」

「これはっ! 」

「神聖魔法の付与か! 嬢ちゃん本当に単なる神官か? 」


 その言葉にレナが苦笑いで返す。

 蒼白い光が身をつつむ中、僕は前を向いて意気込んだ。


「よし。行こう! 」

「「「おう (はい) !!! 」」」


 ★


「はぁはぁはぁ......。くそっ! 」

「ふむ。予想以上に強かったですね。しかしまだまだ足りませぬが」

「余裕ぶっこんでんじゃねぇ! 」


 ギィン!!!


「な! 」

「まだまだですな。ふん!!! 」


 ド!!!


「かはっ! 」


 ジークが吹き飛ばされて建物と衝突しょうとつする。

 肺から空気がれて意識が飛びそうになる。

 悪魔は追撃をしようとしない。

 壁から落ちてひざをつくのをじっくりと観察していた。


「ふふ。結構楽しめましたがここまでの様ですね」

「隊長! 」


 ジークに悪魔が近寄ると他の隊員が起き上がるように声をかける。

 しかしそれもかなわず鉤爪かぎつめを振り下ろし——


氷弾アイシクル・ショット


 悪魔の体が吹き飛んだ。


 ★


「師匠! 皆を! 」

「ここは老人に任せておけ」

「ガンフィールド閣下?! 」


 師匠が横たわっている人達をかかえて、放り投げる。

 え......、流石にその運び方は。


「ア、アルト坊ちゃん。どうしてここに」

「悪魔を倒しに、だよ。ジークこそ何でここに? めたんじゃ? 」

「……レギナンス伯爵の野郎共はどうでもいいですが、住民に死なれたら目覚めが悪いんでね」

「お人好しな性格は変わらないね」


 そう言うと罰が悪そうに顔をそむけた。

 僕とジークが話している間に師匠は投げ終わったのか、ジークの体が浮き上がった。


「あとは頼むぞ。流石に火悪蜥蜴サラマンダーを三十斬るのはこたえたからの」

「任されました」

「え、ちょっと待って下せぇ。なんでかかえられてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 体のあちこちを焦がした師匠がジークを連れてジャンプした。

 師匠は空歩くうほ跳躍ちょうやくを使いながらこの場を離脱。


 ここに来る前に師匠は率先そっせんして火悪蜥蜴サラマンダーの火をその身に受けながら切り刻んできた。

 その影響もあってかもう体力がないらしい。

 というよりもどうやったらあの人は死ぬのだろうか。


 ちらっとそう思いながらも吹き飛ばした方向を見る。

 するとそこには起き上がって来る悪魔が一体。


「魔法でこの威力とは恐れ入りますね」


 悪魔と僕の間にアイリが入る。


「これ以上はやらせん! 」

めっされなさい」


 アイリの体が蒼白く光る。

 途切れそうになる聖光をレナが付与したようだ。


「先手必勝」


 キィン!!!


 アイリが切りかかると悪魔は爪で受け止めた。

 受け止めた瞬間悪魔の顔が少しゆがむ。

 やはり悪魔に神聖魔法が効くようだ。

 その間にも僕は叡智の魔導書メーティスを構えて援護する。


水球乱舞ウォーターダンス

付与エンチャント: 聖光ホーリー


 三つほど水球を出すとレナがそれぞれに聖光を付与した。

 それを見て悪魔はアイリを押しねのけてちゅうを舞う。

 空中を行く悪魔に水球を操作しぶつけようとする。


「当たらなければ意味はありませんよ」

「そうでもない。風壁ウィンドウォール


 悪魔の進路をふさぐように一枚壁を作り上げる。

 ぶつかる前にそれを避けるが、その先には僕の水球がある訳で。


 ドン!!!


 悪魔に一発あたり動きが止まる。

 隙が出来た悪魔に後二発を撃ち込んで、地面に叩き落とした。


 ド、ド、ド!!!


「取った! 」


 ザシュ!!!


 転がる悪魔をアイリが切りつける。

 間一髪で避けられるが腕を一本アイリが落とした。


「ふぅ。危ない人達だ」


 痛がる様子もなく立ち上がる。

 アイリはその様子にくやしそうな顔をするも再度体勢をととのえて剣を構えた。


「悪魔にだけは言われたくないね。でも終わらせない。水龍餓狼リヴァイアサン


 となえると同時にアイリが引く。

 巨大な水色の魔法陣が現れたかと思うと悪魔に向かって食い掛かる。

 悪魔が驚く様子を見せるも時すでに遅し。

 巨大な水龍は悪魔を食い千切った。


「終わったか? 」


 水龍がむしゃむしゃしているとアイリが言う。


「そうであってほしいが――」

強制終了シャットダウン


 パン! という音が聞こえて水龍餓狼リヴァイアサンはじけた。


「「「な (え)??? 」」」

「ほほほ。見事です」


 前を見ると水龍餓狼リヴァイアサンがいた所に傷も何もない悪魔がいた。

 あれを喰らって無傷だと?!

 驚き固まる。


「アルト! 」


 横腹に強烈きょうれつな痛みを感じて吹き飛んだ。

 同時に金属音が耳に聞こえてくる。

 しくじった。

 こんな時に動きを止めるなんてっ!


「炎鎧」


 起き上がり前を見る。

 そこには真っ赤に燃えるアイリがいた。


「付与します。付与エンチャント: 上位聖光アークホーリー

「火剣演舞」


 レナが錫杖しゃくじょうかかげて炎鎧に聖光を付与した。

 付与を受けたアイリは周りに飛びる炎を操って悪魔と対峙たいじしている。

 アイリは剣で切りつけるも悪魔は避けずにそれを受けた。


「な! 」


 確かに真っ二つに切れた。

 だが時間が巻き戻るかのように分かれた二つは元に戻る。


「ぐはぁ! 」


 驚き隙が出来たアイリに拳を振るう。

 アイリが吹き飛び建物に衝突しょうとつする。

 それに目をくれずレナに近寄りり飛ばした。


「レナ! アイリ! 」


 声をかけるが答えが返ってこない。

 剣を杖にして立ち上がりながら悪魔を見た。


「ほほほ。正解です。加点ポイントも差し上げますよ」


 なにを言っているんだ、この悪魔は。

 近寄る悪魔に魔導書を向ける。


「悪魔は神聖魔法に弱い。にかなっておりますとも。加点ポイントとしては火を使ったところでしょうか。受肉じゅにくした以上この体は火に弱いのでね」

「本当に何を言っている! 」

「いえいえ。こちらの話でございます故お気になさらず」


 そう言いながらひっこめていた爪を長くする悪魔。

 動きを見逃さないように注視した。


 悪魔は神聖魔法に弱い、か。

 それで思い出したことがある。

 それは昔国を恐怖におとしいれた悪魔を倒した勇者の話。


 この叡智の魔導書メーティスは書物で得た魔法の知識を具現ぐげん化するスキル。

 その勇者は魔をはらう力を持って悪魔を退しりぞけたとか。


 僕の水龍餓狼リヴァイアサンやアイリの剣撃でも再生した。

 レナの聖光をもっても払うことが出来なかった。

 ならば——。


「我がのぞむは聖なる力」


 唱えると悪魔の動きが止まった。

 雰囲気が変わるのがわかる。


 だが集中しろ。

 思い出せ。

 本の内容を!!!


「我がたてまつるはつるぎの神」

「む」

「悪しき物を切りく偉大なる剣神」

「それは! 」

「聖なる力を持って我が望みを叶えたもう! 魔が払の聖剣クラウソラス


 空中に、巨大な蒼白い魔法陣が現れる。

 そこから蒼白い光を放つ一本の大剣が降りて来た。

 がそれに目をくれず僕の方を悪魔がみた。


「正解です。これでまた一歩、人類は進化しました」

「え? 」


 悪魔が言っている事がわからない。

 その真意を聞く前に悪魔は、消滅した。

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