第23話 試練の代行者

「あ、悪魔だと?! 」

「何でそんなものが」


 書斎しょさいに入って来た人が大きくうなずく。


「み、見間違いか何かじゃないのかね? 」

風貌ふうぼうなどを確認してもどの魔物とは一致いっちしません。加えて伝承でんしょうと同じ姿形すがたかたちをしています」


 肩で息をしながら報告した。


 悪魔。

 伝説上の魔物である。

 いやマイナーな宗教によっては神様と同列どうれつあつかう宗教もあるから何とも言えない。

 何故神様と同列として扱うのかというと、スキル付与が行えるからだ。

 詳しい事は分からないが契約をすることでスキルを付与できるらしい。


 だが必ずと言っていいほど契約者は破滅する。

 よって悪魔に入られないように貴族の子は小さな頃から教育を受けるのだが——。


「そうか。『賢者』のスキルは悪魔契約か! 」

「! 」


 僕が呟くとエリック様がこちらを見た。


「不自然と思っていたんだ。『魔法: 初級』しかスキルを持っていなかったエルドが『賢者』スキルを得たことに」

「悪魔に魅入られたか」


 そう呟くエリック様を見上げて大きく頷いた。

 可能性はないことはない。

 正妻せいさいの子として生まれて甘やかされた次男『エルド・レギナンス』。

 悪魔に関する勉強からも逃げた可能性がある。

 何も知らないエルドはそのまま契約し悪魔に取りつかれた、と。


至急しきゅう軍備ぐんびととのえるぞ! 」

「ハッ! 」

「総員に指示を出せ。レギナンス伯爵領との街道かいどうふさ防衛ぼうえいてっしよ! 」


 エリック様がそう言い立ち上がる。

 あわただしく扉の方へ向かい、僕を見下ろしながら言う。


「アルト君。悪いが事態はきゅうようする。私はこれで……」


 エルドが悪魔に魅入られた、か。

 なにも努力をせずに手に入れた力でえつにでもひたっていたのだろう。

 今はその代価を支払っている所と言う訳か。


 ざまぁないね。


 今頃は体を乗っ取られて暴れまわっているに違いない。

 僕にとってレギナンス伯爵家は母上を殺したにくたらしい存在だ。

 けれどそこにいる人達は関係ないわけで。

 だから、だから僕は——。


「エリック様。僕は、エリカの子『アルト』は……。悪魔討伐に向かいます」


 そう言い僕は部屋を出た。


 ★


「いました」

「見つけたぞアルト。どこに行っていたんだ? 」


 やかたを走り外に出てスキルを使おうとしていると、法衣ほういを着たレナと赤い鎧を着たアイリがやってきた。

 冒険者として活動している時の装備と同じだ。

 

「何やら館の中が騒がしいな。緊急事態か? 」

「ああ実は」


 そう言い二人に説明する。

 そして僕は二人に言った。


「ちょっとしたら帰るからさ。こっちで待ってて」


 ゴン!!!


 いきなり頭に痛みが走る。

 しゃがみ涙目なみだめになりながら上を見ると怒ったアイリとレナの顔があった。


「一人で行くつもりか? 」

「まぁ」

「どうしてオレ達を頼らない」

「それとも頼りないですか? 」


 そう言われて言葉に詰まる。

 これが普通の魔物討伐ならば連れていっただろう。

 だけれど今回は伝説上の相手。

 どう転ぶかわからない危険地帯に彼女達を連れて行くわけにはいかない。


「本当に伝説通りの悪魔ならば私のような神官が使う神聖魔法は役に立つでしょう」

「オレだって住民の避難くらいできる」

「だけど……」

「ほほほ。困っとるようじゃなアルト」

「「師匠?! 」」


 声の方向を見ると一人の老人が来ていた。

 だけどいつもの服装とは違う。

 明らかに戦闘用の騎士服だ。


「わしもついて行こう」


 その言葉に急に不安になった。

 アイリも同じ心境しんきょうなのだろう。ちらりと見ると顔が引きっている。


「何やら聞くところによると悪魔だとか? 」

「「「うぐっ!!! 」」」

「そんな大物と戦う機会をわしから奪うなど、師に対して不誠実せいじつと思わんかの? 」


 全然思いません!

 むしろ体をいたわる師思いの弟子と思ってください。

 そう思いつつも息を吐く。

 言ったら止まらないのがこの老人。

 連れて行くしかない、か。


「不安があるのならわしがそっちの神官の嬢ちゃんを護ろう。近接戦闘は苦手じゃろ? 」

「はい」

「近接戦闘に弱い嬢ちゃんをわしが護り、神聖魔法に弱い魔物達を倒していく。これほど効率的な戦いはないと思うのじゃが? 」


 確かにそうだ。

 魔物は神聖魔法に弱い。

 高位のものになると一瞬で消滅するくらいには。

 悪魔も魔物の一種ととらえるのならばこの組み合わせは強い。

 腹をくくるしかないのか。


「よし。決まったようじゃな。じゃがどうやって移動するのじゃ? 」

「確かに。今から向かっても間に合いそうにないが」

「……今から見せるものは秘密にしていてくださいね? 」

「「「??? 」」」

「顕現。転移門ゲート

「「「な!!! 」」」


 叡智の魔導書メーティスを発動させて魔法を使う。

 巨大な門が目の前に現れ「ギギギ」と開く。

 門から目を移して皆の方を見る。

 そこには驚いた顔が三つそろっていた。


「て、転移魔法じゃと?! しかも長距離?! 」

「まさかこのようなものを」

「トンデモない物を隠し持っていたな」


 ほほいて三人に言う。

 くぐるようにうながして僕も入る。

 門が閉じ、消え去るのを確認すると、僕の目には火の海となった領都が映っていた。


 ★


「結局俺達もお人好しと言うことかい」

「仕方ないでしょう? 来てしまったのは」

「はぁぁぁぁぁ。見逃せない自分の性格が嫌になる」


 領都の人々を誘導し終えた後、ジークは突如とつじょ現れた魔物を倒し、溜息をついていた。

 が彼らの前に一体の人型の魔物が近寄っていた。


「全員気をつけろ。多分あれだ」

「分かってますって、隊長」

「隊長じゃなくてリーダーだ」


 剣を構えて黒い魔物を見る。

 がしかし魔物は警戒する様子もなく五人を見る。


「ふむ。私のおもちゃを逃がしたのは貴方たちですね? 」

「おもちゃってのが人間ならばその通りだ」

「おおお。これは罪深い。罰を与えなければなりません、ねっ! 」


 長い鍵爪かぎつめを軽く振る。

 予見よけんしていたのか五人はすぐにりになり攻撃をかわす。


「ちっ。威力は本物か」

「地面がえぐれてらぁ」

「いえいえこの程度。遊びにもならない曲芸きょくげいですよ」


 そう言いながら何回も爪撃そうげきを飛ばす。


 ザザザ!!!


 と建物に当たり傷をつける。

 傷がついたかと思うと爪痕つめあとの形にずれていった。


「冗談きついぜ」

「……仕方ねぇ。総員。丸薬の使用を認める! 決死けっしの覚悟で殺しに行くぞ! 」

「「「はっ!!! 」」」


 ジークの一言で全員腰にしている小袋に手をやる。

 興味深そうに悪魔が視る中で彼らはそれを口にした。


「ほほう。それが丸薬とやらの力ですか」


 彼らの見た目は変わりない。

 だが変化を感じ取ったのか、悪魔の見る目が変わった。


「相応の代価を元にスキルの力を強制的に上げる薬。創意工夫の末に手に入れた人の力。それが正しい方向かはさておき——面白い」


 こうして剣豪五人と悪魔の対決が始まった。

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