追放者サイド 6 エルドの凶行 受肉する悪魔

「な、何をなさるのですか!!! 」

「エルド様、おやめください! 」

「うるさい! この裏切り者共めが!!! 」


 訓練場の中心。

 いきなり集合がかかったかと思えば、いきなりメイドが一人はしらしばられた。

 彼女を中心に人が入れないように物理結界が張られて騎士達も中に入れない。

 集合がかかった他の使用人達もエルドを止めようとするが、結界内にいるエルドに近寄れない。

 くやしく思うも声を上げるしかできない。


 今から行われることは大体想像がつく。

 処刑だ。

 見せしめのための処刑だ。


 ここに来て彼らは後悔していた。

 自分達の行動のせいで同僚どうりょうが殺されることに。


 もし自分達がもっとマシな態度を取っていれば。

 もしもっと主人達に気を配っていればと。

 しかしそれはもう遅い。

 全ては身から出たさび


 そのくるえる炎は手から放たれ——


「ギャァァァァァァァァ!!! 」


 耳をふさぎたくなるような声を出した。

 燃えて行く同僚を見ながらひざをつく使用人達。


「ハハハハハ!!! 見たか裏切り者共! 」


 燃えていくメイドを見てエルドは笑う。

 振り向き狂った表情を彼らに見せた。


「この領地で、俺の領地を奪おうとするから罰が当たったんだ!!! 」


 なにを言っているのか周りの者達は分からなかった。

 ただわかるのは正面にいる男は狂っているということだけ。


 悲鳴が訓練場に響く中、やかたから異常を察知さっちしたザックがエルドの方へ走っている。

 それを見たエルドは満悦まんえつそうな顔をしてザックに近寄り報告した。


「父上! 見てください! この館に住まう害虫がいちゅうどもを一度引き締めました! これでこの領地を乗っ取ろうとする者はいないでしょう!!! 」

「何を馬鹿なことをしている!!! 」


 パシン!!!


 エルドはいきなりザックにビンタされて尻もちをついた。

 なにが起こったのかわからない様子で呆然ぼうぜんとするエルド。

 しかし徐々に痛みが昇って来たのかほほに手をやり「な、なんで」とだけ呟いた。


「害虫? 乗っ取り? 一体何のことを言っている! 」

「や、奴らの事です! もしかして父上は知らないので? 」


 騎士達を指すエルド。

 だがザックの答えは意外だった。


「知っている! だがこの館にいた諜報ちょうほう共は全員めた! 」

「え……じゃぁ……」

「お前が殺したのは純粋なこの館の使用人だ。馬鹿息子が!!! 」


 それを聞きエルドの頭の中が真っ白になる。


 (どういう……)


 考えることのできない頭で必死に考える。

 しかし何も出てこない。

 だがそこで聞き覚えのある声が頭に響いた。


『おお、これは美味。この絶望は美味ですな』


 (あ、悪魔……)


『馬鹿だ、馬鹿だとは思いましたがここまで馬鹿だとは』


 (は、はかったな! )


『悪魔ですのではかりごとの一つや二つくらいしますとも。では約束通り対価を支払っていただきなす』


 (え)


 抵抗する間もなく悪魔が体に憑依ひょういする。

 真っ白な頭が黒く染まる。

 同時に体に変化が起こり始めた。


「な、なんだ?! 」

「体が黒く? 」

「様子がおかしいぞ! 全員距離を取れ! 」


 エルドの体が浮き上がる。


「ガガガ! 」


 苦しそうな声を出しながら腕に足に、本来は曲がらない方向に曲がり、元に戻る。

 宙に浮いたエルドは地に立った。

 しかし風貌ふうぼう最早もはや別物。


「!!! 角?! 」

「長い鍵爪かぎつめに黒い翼、だと」

「まさか……」

「ククク。久々に受肉じゅにくできました。楽しませていただきましょう」


 悪魔による一方的な蹂躙じゅうりんが——始まった。


 ★


 レギナンス伯爵領領都りょうと近郊の町の冒険者ギルド。

 そこで何人かの男達が机を囲んでいた。


「アルト坊ちゃんは大丈夫かねぇ~」

「……魔の森だからな」

「出来る限りの事はした。その後の事は正直わからん」


 一斉に溜息をついて見合わせる。


 彼らはアルトの母と共にレギナンス伯爵家に来た騎士達だ。

 エルドの暴走により危険を感じた彼らは、他の面々と打ち合わせて一緒に退職した。

 実家に戻るという選択肢もあったのだが、彼らは少し自由を満喫まんきつしたく冒険者になったのだ。

 だが元軍部の人間。

 採取系の依頼以外はほぼほぼ完璧にこなす超人。

 今は全員がDランクとなりこうしてパーティーを組んで活動していた。


「奥様……いや姉さんが剣豪の元にじ込んだんだ。死にはしないだろう」

「確かに。生きるすべは叩きこまれているはず」

しかり。剣術スキルを持たずとも我らと打ち合うことができていたのだ。大丈夫だろう」

案外あんがい他の町で冒険者をしていたりな」

「それならば俺達と会うこともあるだろう。それはそれで面白い」


 なつかしく思い、そして無事を祈る五人組。

 彼らはアルトの母が隊長をつとめていた時の部下である。

 彼女をしたいレギナンス伯爵家まで来たのだが、結果は無念むねんそのもの。

 ここ領都の近くに拠点きょてんを構えている事も、彼らの女々めめしさを表している。


 少しの間思い出話をする。

 結局の所、騎士も嫌がる剣豪の修業について行ったアルトは大丈夫だろうという、根拠こんきょらしい根拠がないを元に結論が出た。

 昔話をしていると「バン! 」と扉が開いた。

 いきなりの事に驚きながらもその方向を見ると一人の少年が息を切らして中を見てた。


「全員逃げろ! 」


 一人の小さな冒険者が中に入るやいなやそう言った。

 その言葉に全員が首を傾げるも男の子は口早くちばやに言う。


「変な魔物が領都に出た! 今領都は壊滅かいめつ状態だ!!! ここもすぐに襲われる。逃げるんだ! 」

「おいおい嘘を言っちゃいけねぇ」

「坊主。嘘をつくならもっとマシな嘘をつきな」


 ははは、と他の冒険者達が笑うが元騎士達五人組は席を立った。

 後ろから「おいどうした」「びびったのか? 」などの言葉が飛ぶも、気にせず少年と共に外に出た。


 ギルドから少し移動する。

 道を曲がり裏路地ろじに入り、そこで六人は顔を合わせていた。


「さっきの話は本当か? 」

「はい。ジーク隊長」

「今は隊長じゃねぇよ」


 少年に見える軽装けいそうの彼はジークと呼ばれた男の家の諜報だ。

 領都にひそみ情報収集をしている。


「で、周りの動きは? 」

「各貴族家の諜報は撤退てったいを始めています。領都以外の状況は把握はあくできていませんが、恐らく情報が回り騎士達を含めて撤退を始めるでしょう」


 それを聞きまゆひそめるジーク。


交戦こうせんはないのか? 」

「普通の魔物ならば交戦も有り得たと思いますが、今回はすぐに撤退した方が良いかと」

「? なにが出たんだ? 」


 らしくない提案に不審ふしんに思うジーク。

 そして諜報の少年は「ゴクリ」とを鳴らし、緊張した声で名前を言った。


「……悪魔です」


 それを聞きジークは眩暈めまいを覚えた。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


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