第3話 アルトは魔法を解放していく

 明らかに威力がおかしい中級魔法に驚きながらもやるべきことを考える。

 まずは魔石だ。

 魔石をスキルに吸収させることで、生きびれる確率を上げないと。


 そう思いながらもゴブリンに近付き見下ろす。


「うぇ……」


 正直気持ち悪い。

 やりたくないが、かがんで、本で読んだ魔石のある場所に短剣をした。

 少し弾力のある感触を覚えながらも突き刺して周りをけずる。

 魔石を取り出し、叡智の魔導書メーティスを発動させて吸収させた。


「……やっぱりか」


 前回と同じく魔石が吸収されていく。

 本が光り、そして収束。

 新しい魔法が解放されたことを確認するため、ページをめくった。


素材自動採取オートマジック・コレクション? 」


 意外な魔法に目を開かせる。

 ......これって『オルディ空想魔法大全』に出て来た魔法じゃないか?

 え、あれって架空の魔法じゃなかったのか?

 いや魔法自体が空想のようなものだけど、確か確認されていない魔法を載せた資料集だったはずだ。


 となるとあの一般魔法教本以外の魔法も使えることになる。


「も、もしかして……このスキル。出鱈目でたらめなんじゃ……」


 体が熱くなるのを感じる。

 希望が見えた!

 もし......もし色んな魔法を使えるのなら! それこそ賢者スキルなんて目じゃないじゃないか!!!


「よし! やるぞ!!! 素材自動採取オートマジック・コレクション!!! 」


 ……何も……、起こらなかった。


 ★


 思い出せば素材自動採取オートマジック・コレクションは採取する物・場所などを設定しなければならかった。

 よって何も起こらないのは当たり前なわけで。


 一人興奮していたのが恥ずかしい。


 今回、素材はゴブリンの耳と魔石になる。

 ゴブリンの耳は錬金術の素材になるし、魔石は魔道具の動力になる。

 よってこれらを設定して再度発動。

 すると目の前に多くの魔石と耳の小山が出来上がった。


「うう......。気持ち悪い」


 緑の耳が山積みとなっていることもそうだけど、これは多分魔力欠乏だと思う。

 光球ライトの使用時間を延ばすための練習をしていた時に何度も味わった。

 この魔法は、というよりかはこの量はかなりの魔力を食うみたいだ。


 少し腰を降ろしたいけど我慢。

 いつ何が襲ってくるかわからないから早く安全けんを見つけないと。


「今の所は......何もいない」


 右に左にみて確認。

 そしてすぐに魔導書をかざして魔石を吸収し魔法を確認した。


「『魔物除け』『虫除け』『魔力自動回復オートマジック・マナ・リジェネレイト』か」


 魔力自動回復オートマジック・マナ・リジェネレイトを見てすぐに発動する。

 自然と吐き気が収まっていき、魔力が体の中で再生産されているのを感じた。


 これはありがたい。

 僕の魔力は多い方だけど、無限ではないからね。


 一息ついて残った耳を見る。

 おいて行くべきか、持ち運ぶべきか。

 腰にする小さな小袋を見て、再度考えた。


 可能ならば持っていきたい。だけど......、いや確実に邪魔になると思う。

 ならば持って行かない一択だ。


 そして耳を残してこの場を去った。


 ★


「キキッ! 」

風刃ウィンドカッター! 」


 木々をり僕の上を行く魔物に風刃を飛ばす。

 さる型も魔物はそれを避けて僕の風刃はえだを切った。


「キキッ! 」

「! 」


 切れた枝を器用にちゅうつかみ僕に向かってくる。


 そんなのあり?!


 手にした短剣をとっさにかざす。

 体を半身にしてとがった枝をギリギリで避けると、首筋を「シュッ」っと短剣で軽くさばいた。


 血が巻散まきちる中、すぐさまそこから離れて『落とし穴ピットフォール』を発動。


「キィィ!!! 」


 腕を伸ばして落ちていく猿に追撃を下す。


氷槍アイシクル・ランス! 」

 

 再度顔を見せようとした猿に巨大な氷の槍が、落ちた。


「はぁはぁはぁ......。強すぎ」


 愚痴ぐちをこぼしつつ、腰を降ろす。

 空を見て、大きく息を吐いた。


「これは魔石、期待でき無さそう」


 恐らく悲惨ひさんなことになっているだろう巨大な氷の槍を見て呟いた。

 これは魔石ごとやってしまったかも。

 

 一応素材自動採取オートマジック・コレクションを発動させようとして、やめた。

 明らかに粉砕してしまっている。大きな魔石を期待できたんだけど、これは仕方ない。

 ここで魔力の無駄な使用はひかえるべき。

 幾ら自動回復すると言っても時差がある。その間に襲われたらかなわない。


「これ以上は進まない方が良さそうだ」


 僕は辺りを経過しながら立ち上がり、少し思い出す。


 ここに来る前に何度も戦闘をして、使える魔法を解放しながら進んできた。

 けれどここに来て異常に魔物の強さが上がった気がする。

 

 引きぎわだ。


 そう思い自分が作った安全圏に戻った。


 ★


 ここを見つけたのは偶然だった。


 水の流れる音がしその方向に向かったら川があったので、これ幸いとこの周辺に安全圏を作ったのだ。

 安全圏の作成には幾つかの魔法を使用している。

 それが壊れていないか『魔物避け』と『虫除け』を付与した、比較的大きな魔石を確認し川で手を洗う。


 これは付与魔法と結界魔法を使った簡易かんいキャンプで一般的に魔法使いが使う方法なようだ。

 その昔、知識として教えてもらったことがある。

 まさか実践する日が来るとは思わなかったが。


「さてと」


 と呟き異空間から毛皮を出す。

 道中倒した熊の魔物の毛皮で天幕てんまくを作るために川で洗った。

 流石に血生臭いまま素材として使い、それで天幕を作ってその中で寝るには僕のレベルが足りない。


 魔物の毛皮をそれぞれ洗う。乾燥ドライで乾かし準備万端ばんたん

 そして——。


分離セパレーション雨除け作成シェルター・クリエイション


 並んだ毛皮が少しずれる。

 繊維状になったそれらが組み合わさって一つの大きな布を作る。

 出来上がった大きなそれは作っておいた木組みにかぶさり一つの天幕となった。


 少し離れてそれを見る。


「よし」


 これで一晩ひとばんくらいはしのげるだろう。

 確認しながら天幕に入る。

 日が落ちるのを感じながらもゴワゴワした毛皮の上に寝そべり携帯食をかじる。


 後のことはまた考えないといけないけれど、一先ずの安全を確保出来れば今は良い。

 まだ何とか生き残れそうだ。


 様子をみて森を出よう。だけど今すぐ出ると「騎士達が僕を見逃した」と勘違いしてあの人達が彼らを処刑しそうだ。

 携帯食に短剣にと渡してくれた彼らを困らせてはいけない。

 ころ合いを見て、レギナンス伯爵領とは違う方向に出よう。


 その後は......、冒険者、だね。貴族の子でもやる人は多いみたいだし。

 けれどこのまま冒険者をするとすぐにつまづきそう。なら、できる限り使える魔法を増やして外に出るのが一番手堅てがたいだろう。


 瞳を閉じてあの父や弟の事を思い出す。

 今となってはあのぽっちゃりとした二人がにくたらしい。なんで言うことを聞いていたのだろうと考えるも、首を振る。

 ゴッ、という音がしてぬのが見えた。


 あの家とはもう関係のない。

 今はどう生き残るかが重要だ。


 少し頭に痛みを覚えながらも再び瞳を閉じる。

 そして心の中で死んだ母上に謝る。

 母上が口酸っぱく「知識は裏切らない」と言ったのは本当だったみたいだよ。

 だってこうしてサバイバルが出来るのも、母上が一人の騎士として活動していた時の話を、聞かせてくれたおかげだから。

 

 あとやるべきことを考え、今日の所は一先ず寝た。


———

 後書き


 まだまだ序盤!!! もし期待できそうでしたら是非とも「フォロー」や目次下部にある「★評価」、よろしくお願いします。

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