追放者サイド 1 浮かれるエルド
レギナンス伯爵家の館にあるエルドの自室。
そこは
ふかふかなソファーの向こう側、そこにはニヤつくエルドがおりそれをメイドが冷たい目線で
その目線に気付かないほどに浮かれているのか、彼は
エルドは人の目線に
それもそのはず、彼は今日自分の腹違いの兄を追放した。
追放したのはエルドの父なのだが、実質彼が追放したようなもの。
その満足感からエルドは一人
「ようやく。ようやくあの目障りなアルトが消えたっ! 今日という日を
「......それも
メイドがエルドの言葉に冷たく返す。
その言葉に
(このままだと
彼女は浮かれる次期当主を観察した。
おかしな点が無いか調べるためだ。そしてもしおかしな点があれば本格的にこの家を出ないといけないと考えている。
(まだ......下手に動けませんね)
今の彼は次期当主。証拠もなしに歯向かえば自分の身が危ない。彼女に何かと理由をつけて罰を与える権限を持つ一人なのだから。
よって何か不正の証拠一つでも手に入れて
(しかし何故この豚は『賢者』などという
彼女がそう思うのも無理はない。
何故ならばつい先日までこの浮かれ馬鹿のスキルは『魔法: 初級』のみであったからだ。無論スキルの
しかしながらエルドは修練どころかまともに勉強すらしていない。
なぜ賢者などというスキルを得たのか不可解
彼女が観察していると、エルドの顔がピタリと固まる。
そしてすぐにメイドに声かけた。
「今から用事がある。この部屋から出て行け」
「
そう言い観察を中断し、
★
「これでいいのか? 」
閉じた扉を確認しエルドは誰もいない空間に声をかけた。
するとそれに応じるかのように暗闇が広がり紳士服の男性が現れた。
黒いシルクハットを
「ええ、ありがとうございました。しかし、完全に怪しまれていましたが......大丈夫なので? 」
「
エルドがクッションのある椅子にどさりと体を
二本の角を持つ彼は口をへの字にしながらも「確かに」と言う。
「だろう? 」
「ええ、まさにおっしゃる通りで。権力さえ
「その通りだ」
エルドがニヤリと笑みを浮かべると男も笑みを浮かべた。
(
男も気分が良くなり手に持つステッキを軽く回す。
少し長いそれは空を切り少し風刃を作り出していた。
それを見てエルドが慌て彼を止める。
少し不機嫌そうにするもピタリとステッキを降ろした。
「俺の貴重なコレクションがあるんだ。壊すのはやめてくれ」
「ふむ......。仕方ありませんね。やめておきましょう」
男は納得し移動を始める。
紳士服に二本の角。シルクハットに長いステッキ。
普通の
加えてエルドがメイドを下がらせたのは、この男が念話で「今から様子を見行く」と伝えたからで。
事この家に置いて多大な権力を持つエルドに命令していることからも、この男が普通の来客ではない事がよくわかる。
(しかし......先程の女性は密偵だったようですが、伝えた方がよろしいのでしょうか? いえ、黙っておくのも楽しみの一つかもしれませんねぇ。ここは一つ黙っておきましょう)
心の内を隠したまま彼はそのままソファーに座る。
ステッキを優しく隣に置く彼に
「悪魔。そう言えばお前は何という名だ? 」
「私など『名も無き悪魔』で構いませぬよ」
「しかし呼ぶ時に不便だ——「私は構いませぬ故ご心配なく」......、お前がそう言うなら構わない、か」
食い下がるエルドにピシャリと
(こんな愚か者に
悪魔の
しかし今日の事を思い出して気分を戻す。
軽くなった口を開いて悪魔に向いた。
「悪魔。お前のおかげで『賢者』のスキルを得ることができた。礼を言おう」
「お構いなく。代価は
「それでもだ。悪魔のおかげであのクソ兄貴を追い出すことが出来た。追放先は魔の森! 最早生きてはいれまい」
「それはそれは。お客様である貴方に喜んでいただき悪魔
上機嫌を通り越して「ハハハハハハ!!! 」と高笑いを始めたエルドを悪魔が嬉しそうに見る。
その急変化する感情を面白そうに観察しながら、エルドに話を持ち掛けた時の事を思い出した。
★
得たレアスキルの解明を進めていたアルトに
彼が焦る中行われた十五の成人の
これが終われば自分は『賢者』のスキルを得て次期当主の
正妻の子であるエルドに『賢者』のスキルが宿る事に多大な期待を寄せていた父ザックはその結果に大きく失望した。
そしてその様子を
(たかがスキルに
タイミングを見計らい絶望していたエルドの前に出た。
そして悪魔は
『賢者のスキルを与えましょう。報酬は——』
今の
(ふむ。やはり外法は外法ですね。他の人の魂が混ざっている。しかし、まぁ良い
紳士に見えて、本物の悪魔。
そんな彼は思い着いたことを口に出す。
「その力。試してみたくはありませんか? 」
悪魔の提案にエルドは更に笑い声を上げた。
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