第10話 アルトは装備を新調し宿に泊まる

 レナとパーティーを組み一旦休憩きゅうけいはさんだ後、装備を一新いっしんするために宿を出た。


『失礼ですがアルト様の装備はボロボロなので買いに行きましょう。普通のFランク冒険者でももっと装備を整えていると思いますよ? 』


 これがレナのげんである。


 冒険者として先輩のレナに言われたらそうするしかないのもあるが、同時に全くもってその通りだと思う。

 さいわいなことにミノタウロスを倒した報奨ほうしょう金はたくさんある。

 初心者用の武具・武器一式ならばそろえることができるだろう。


 しかし反論はんろんさせてもらえるのならば、これは魔の森で死闘しとうり広げた結果な訳で。

 けっして僕の趣味ではないと言っておこう。


 宿から離れて町を歩く。

 隣のレナを見ると彼女は言った。


「そのままでも十分にお強いとは思いますが、万が一にそなえて整えておくべきです! 」


 レナが意気込み僕は苦笑い。

 何で買う僕よりも彼女の方が気合入っているのかわからない。

 だけれども断れる雰囲気ではないし、それに全くもって彼女の言う通りだ。

 ということで彼女について行っているわけだが。


「最初はどこに向かってるんだ? 」

「最初は服をそろえればと」


 そう言われ自分を見る。

 うん。ボロボロだ。これは替えないとだめだな。

 納得したところでレナについて行き服屋へ行った。


 ★


「こちらも良いですね」

「こちらの商品は——」


 レナが服を幾つか選び俺に合わせる。

 すると店員さんが彼女に説明した。


 確か僕の服で、僕が買うはずなんだけどこれは一体。

 少し戸惑いながらも漏れてくる言葉を聞いていると冒険者用の身軽みがるな服らしい。

 きちんとしたものならば大丈夫……か?

 しかし自分で選べと言われると困るのも本当の事で。

 実の所レナが選んでくれるのは助かるのだが……、着せ替え人形状態は心地ここちいいものではない。


「ではこれにしましょう」

「お買い上げありがとうございます。そのままお帰りになられますか? 」


 小袋からお金を出しつつ、チラリとレナを見て考える。

 ボロボロの服のまま町を歩くのは……いただけない、か。

 せっかく買ったからね。


「このままでお願いします」

かしこまりました」


 おうじる店員に来ていた服の処分を任せて僕とレナは店を出た。


「似合っていますね! 」

「そ、そうか? 」


 少し頭をきながら答えた。

 今の僕の服装は軽くて丈夫じょうぶこん色のズボンに白い長袖ながそでのシャツ。

 似合っているのかはわからないが、レナが言うのならそうなのだろう。


「ローブや靴は防具屋でそろえましょう! 」

「あ、ちょっと待って」


 僕よりもテンションを高くするレナに待ったをかける。

 勢いを止められたせいか少し顔を膨らませてどうしたのか聞いて来た。


「僕は剣も使うからローブは良いよ」

「アルト様は剣も使うのですか?! 」


 護身程度だけど、と言い付け加える。


「剣を使う時に邪魔になったらいけないからね。ひらひらするローブはやめておくよ」

「……似合うと思ったのですが」

「いざという時に身を護れなかったら大変だから」


 明らかにテンションが下がったレナに説明する。

 彼女は「そうですね」と頷き納得した。

 そして僕達はこの足で武器・防具店に向かった。


 ★


「靴はこれで大丈夫だろう。どうだ? 違和感ねぇか? 」


 そう言われ少し歩いてみる。

 軽くジャンプし動けるか確認。


「大丈夫です」

「そりゃよかった。後は籠手グローブと剣か」


 そう言い店主が奥へ行って幾つか武器と防具を見繕みつくろってきた。


「ベーシックなのはこの組み合わせだ。籠手グローブと付いてお買いどく


 一つの籠手グローブと長剣を差し出してくる。

 値段も手ごろ。

 Fランクに合わせた組み合わせだろう。


「あとはオーダーメイドになる。正直時間がかかるし……どうする? 」


 そう言われて長剣ロングソードを手に取った。

 少しかざして剣を見る。

 特にはこぼれがあるわけでもないし大丈夫そうだ。


「ではこのベーシックな組み合わせでお願いします」

「あいよ」


 と答えて生産に入った。


「買えましたか? 」

「うん。買えたよ」


 店の中で他の商品を見ていたレナが様子を見に来た。

 彼女に応じながらも小袋を開ける。

 お金を払って剣を腰にした。


 僕には鉄剣召喚という魔法がある。

 これは上級魔法で彼女にみられても何とでも言い逃れができる、土属性魔法の一つだ。

 召喚というよりも生成や作成に名前を変更したほうがいいのでは? と思うこれだが、欠点が幾つかある。

 欠点の中でも特に致命ちめい的なのが、剣を作り出すのに時間がかかるということだ。

 いざという時に得物えものが手にないと素手すで同然どうぜん

 ならば最初から身に着けていた方が良いわけで、こうして剣を買っているわけである。


「さ。行きましょう」


 そう言うレナに引き摺られながら僕は宿に戻るのであった。


 ★


 夕食も終えて宿の二階に上がる。

 レナと別れベットの上に大の字でそべった。


「大変だった……」


 一気に疲れが体に押し寄せ動けない。本格的に緊張が抜けたせいだろう。


 ここ数日の壮大そうだいな戦闘がよみがえる。

 いつ死んでもおかしくなかった日々だった。

 いや半分くらいは自分から向かって行ったけれども、あれも今後の事を考えると必要なことだった。


 振り返っていると「コンコンコン」とノックの音がしてきた。

 まずい。今動けない。


「アルト様……。起きて……ますか? 」


 レナか。一先ず返事をしないと。


「ああ起きてる。鍵は開いているから入って良いよ」


 返事をすると「失礼します」と言ってレナが入って来た。


 扉が開く。

 昼と同じ神官服のレナが入ってくるが、どこか表情が暗い。

 何かあったのだろうか?


「? アルト様。何をされているので? 」

「疲労で体が動かないんだ」


 首だけ動かし答えるとくすっと笑い扉を閉めた。

 ト、ト、ト、と歩く音が聞こえてくる。

 レナは近づき、ベットが沈むのを感じた。


「どうしたの? 」

「……一緒に寝ても良いですか? 」

「いやダメだろ」


 即答すると彼女の顔が泣きそうだ。

 いや倫理りんり的に考えて、ダメだろう。


「せ、せめて一緒にっ! 隣で寝させてもらえませんでしょうか」


 必死になって体を近づけて来た。

 彼女が僕の体に触れる。

 すると彼女の振動が伝わって来た。


「ひ、一人が、こ、こ、怖いのです。き、きょう……う”う”う”……」


 軽くパニックになっているのか僕におおかぶさり泣き出した。


 ……。


 今日臨時パーティーに裏切られた事、そしてミノタウロスに殺されかけたことがトラウマになっている……のか。

 そのせいか一人になると恐怖が押し寄せてくる、と。


 これは見過ごせない。


 何とか腕を動かし彼女の背にやる。

 もう一方を回して無言で頭をでた。


 嗚咽おえつが響く。


 しかし満足するまで彼女を泣かせて、落ち着くのを待った。


「ご心配をおかけしました」

「……」


 僕の背中の方から声が聞こえて来た。


 今僕は大の字ではなく軽くななめに寝転がっている。

 話を聞くと大体僕の予想通りだったようで、部屋にいると恐怖が押し寄せてくるようだ。


 それは仕方ない。

 だが何故に僕は腕を回され体と体が密着しているのだろうか。


「今日は……やっぱり一緒に寝ても良いですか? 」


 柔らかい弾力が背中に伝わり、温かい呼吸が首にかかる。


「……うん」

「ありがとうございます」


 回された腕が更にぎゅっと体をめた。


 頑張れ僕の理性!!!


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


 面白く感じていただければ、是非とも「フォロー」や目次下部にある「★評価」、よろしくお願いします。

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