第12話 アルトはゴブリン相手に無双する

顕現けんげん


 森へ入りスキルを使う。

 魔力回復系の魔法を使い「いざ」にそなえる。


「この森は比較的安全らしいのですが」


 そう言いつつもレナも錫杖しゃくじょうを構えて警戒する。

 何が起こるかわからないのが森や山である。

 警戒するにしたことはない。


「一先ずは探そう」

「どうやるのですか? 」

「こうやる。魔物探知ディテクト・モンスター


 一言となえると魔法が発動する。

 複数見えてレナに伝えた。


早速さっそくいた。この奥に十体ほど」

「……一体でよかったのですが」

「こればっかりは僕に言われてもね。次に生命探知ディテクト・ライフ


 人がいないか魔法で探していない事を確認した。

 一先ずはいなさそうだ。


「魔物だけだね。人はいない」


 そう言いながら僕は歩く。

 すると隣からレナの声が聞こえて来た。


「ならば依頼のバッティングはないと思います」

「倒しても大丈夫そう? 」

「……浅い所まで来ているので倒した方が良さそうですね」


 レナの言葉に頷く。

 歩いて行くと、魔の森のゴブリンとは違う貧相ひんそうな体つきの緑の魔物が目に入る。

 すぐに木陰こかげに隠れ気配を消して観察する。

 十体のゴブリン達は「ギギ」と声を上げながら周りをキョロキョロしていた。


「先手をとるか」

「? 」


 叡智の魔導書メーティスを発動させたままゴブリン達に本を向けた。

 そして——。


魔法多重展開マルチプル: 魔弾マジックショット


 唱えた瞬間、ドドドという音を立てて「ギギギギギ」というゴブリン達の悲鳴が聞こえた。

 ゴブリンに当たり、貫通し、地面に着弾ちゃくだんする音も聞こえてくる。

 時々思うがこの叡智の魔導書メーティス、魔法威力増大のような効果があるんじゃないだろうか?

 少しスキルに関して考えていると悲鳴は止んだ。

 きっちり倒れていることを確認し、木陰から出て、短剣を取る。


「異空間収納しゅうのうですか?! 」

「ん? あぁ」


 驚くレナを目をやりながらもゴブリンに近寄る。

 異空間収納魔法は上位魔法の中でも最上位に位置する魔法。

 そのことをすっかり忘れていて短剣を取ったことに少し反省し、素材をぎ取りながらレナに言う。


「僕のスキルは媒体ばいたいとして使っているけど、魔法習得しゅうとく難易度を下げる効果もあるんだ」

「そうなんですね! だから! 」

「そう言うこと」


 と言いつつ剥ぎ取り終わる。

 異空間収納のような魔法は基本的に修得難易度が高い。

 上級魔法には修得難易度の高い魔法が多い。よってこうして納得してもらわないと他の魔法を使う時に困る訳で。


 少し罪悪感にかられながらも小袋を出す。

 耳と魔石を中に入れてレナに聞く。


「あっさりと終わったけど……、どうする? 」

「……また魔物を探す魔法を使って頂いても大丈夫でしょうか? 」

「大丈夫だよ。魔法範囲拡大ワイデンマジック: 魔物探知ディテクト・モンスター


 レナはゴブリンが村を形成していないか気になったのだろう。

 さっきよりも探知範囲を拡大して魔物を探す。

 すると奥に多くの反応を感じとった。


「この先、奥にかなりの魔物の反応があった」

「やっぱり……」

 

 レナは少しうつむき考えている。

 顔を上げると聞いて来た。


「アルト様は……勝てると思いますか? 」

「やってみないとわからないけど……、大丈夫だと思うよ」


 この目で見て見ないとわからない。

 けれど魔の森の魔物に比べれば危険性を感じない。

 僕が答えるとレナが提案してきた。

 

「あまりめられたことではありませんが倒しに行きましょう。ゴブリンの集団と町との距離が近かったので早急に倒した良いかと思いますので」

「了解」

「無論ミノタウロスを危なげなく倒せるアルト様にしか提案できないことですよ」


 レナはそう言い軽くはにかんだ。


 ★


「お。うじゃうじゃいる」

「どのような感じでしょう? 」

「これは村というよりかは国だね。それに何体か上位種みたいなのが視える」


 魔物達を遠視クレアボランスで視認してレナに伝える。


「やはり一旦戻り報告したほうが良さそうですね」

「いや、大丈夫だろう」

「え? 」


 隣から少し驚いたような声が聞こえて僕は立ち上がる。

 きちんと空間を把握はあくし、魔法を発動させる範囲を掌握しょうあくする。


「まずは逃げれないように……。魔法範囲拡大ワイデンマジック: 結界バリア


 遠視クレアボランスで少し広めに魔法を展開してゴブリンをふうじ込める。

 これで外に出れないはず。

 遠視クレアボランスでこちらに気が付いていないゴブリン達を確認しながら、次の魔法を唱えた。


魔法範囲拡大ワイデンマジック: 風氷竜巻」


 緑と青の魔法陣が結界バリアの上空でかさなり合う。

 少し風が巻き上がったかと思うとすぐに巨大な竜巻が結界バリアの中に出現した。


 風と氷属性魔法の複合魔法である「風氷竜巻」。

 上級魔法に分類されるこれは風圧と風刃の斬撃性、そして氷の殴打性をそなえた範囲魔法だ。

 単にゴブリンの集団ならば竜巻のみでよかったかもしれない。

 しかしながら中に何体か上位種がいたのでねんには念を押して、ということで。


「……すごい」


 隣に来たレナがポツリと呟いた。

 竜巻を見ての感想だろう。

 単なる肉眼ではここからゴブリン達は見えないからね。


「そろそろ終わりそうだ」


 遠視クレアボランス殲滅せんめつできたことを確認する。

 ゴブリン村? で残った魔石を回収して町に戻った。


 ……討伐部位は、残らなかった。


 ★


「な、なんですかぁ?! この量!!! 」


 依頼達成とゴブリン達の討伐部位、そしてゴブリン村から回収できた魔石を提出すると、受付嬢が飛び退き驚いた。

 それに反応し後ろから声が聞こえてくる。


「何だあの量」

「全部ゴブリンなのか?! 」

「いやいやありえないだろう?! って、あれもしかしてキングの魔石じゃねぇか? 」

「……少なくともBランクの魔物の魔石が混じってるな」


 あの中にキングがいたのか。

 確かに一際ひときわ大きく頑丈がんじょうな魔石があった。

 村の大きさから『国』と言ったけれど、本当に王国だったとは。


「ひ、一先ずお待ちください」


 そう言いながら受付嬢は扉の向こうに行ってしまった。

 それにおうじて徐々に騒がしさが増していく。


「なんだか大変なことになりましたね」

「……正直やり過ぎたと反省しております」

「本当ですか? 」

「ええ。しかし後悔はしておりません! 」

「これからは周りへの被害とかも考えてくださいね」


 レナに忠告されて俺は頷く。

 まぁあの一帯をボコボコにしたのはやり過ぎたと思う。

 けれどあれを放置できないのも事実で。


 僕は遠視クレアボランスで視たのは単なるゴブリンの集団ではない。

 レナには伝えなかったけれど、武装したゴブリン達がまるでいくさの準備をするかのようにそなえていたのだ。

 町に攻め込むかもしれない。

 そう思い少しごり押しで討伐したということだった。


 二人で話していると扉が開いて受付の人が戻って来た。

 疲れたような表情を僕達に向ける。

 そして一瞬でシャキッとし口を開けた。


「ギルドマスターがお呼びでございます」


 張り付けたような笑顔を見せながら、少し怒気どきはらませて、そう言った。

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