第11話 アルトは初仕事を請け負い森へ行く

 ふわふわな感触がしていい香りが匂って来た。

 同時に背中に弾力とお腹辺りの痛みを感じた。

 すぐに目を開け起き上がろうとしたけれど、起き上がれなった。


 ドン!!!


「いてててて! 」

「むにゃぁ~。アルト様ぁ」

「……レナ」


 どうやら抱きまくらにされていたようだ。

 がっちりホールドされたまま起き上がろうとしたから、ベットに頭を打ってしまった。

 そうだった。ここは魔の森じゃなかった。

 頭に、——石ではない痛みを感じながらもレナを起こす。


「レナ。起きて」

「アルト様ぁ~。そこは食べれませんよぉ」

「「それ」じゃなくて「そこ」?! ……一体どんな夢を見ているんだ」


 あきれながらレナを起こそうとする。

 しかし彼女は起きない。

 反対向いているから聞こえにくいのだろうか。

 そう思いもぞもぞと動き体を反転させる。

 するとレナの胸が僕のお腹に当たる訳で……。


 非常に困ったことになった。


 正面同士が向き合っているせいで彼女の顔がすぐそこに見える。

 彼女の身長がそこまで高くないおかげか、僕の目線は彼女の頭に。

 しかしぎゅっと抱きしめられているせいか胸下あたりがとても苦しい。


 昨日僕の理性が頑張ったのに、寝起きもフル動員どういんさせなければならないとは。


 さいわいなことに腕は自由。

 彼女を軽く叩きながら彼女を起こし続け、四半刻三十分後にやっと解放されるのであった。


 ★


「昨日は申し訳ありませんでした」

「いやそんなことはないよ」


 朝食も食べ終わり初の出勤と行こうとした時、彼女が頭を下げて来た。

 昨日のことは彼女が悪いのではなく、レナを裏切った冒険者達が悪い。

 どちらかというと朝の方がヤバかったのだが、ある意味良い思いをさせてもらったので何も言うまい。


「レナちゃん。昨日何かあったのかい? 」

「いえ。そうでは……」

「あ、まさかそこの彼氏が浮気を? 」

「違いますよ! 色んな意味で! 」


 食器を片付けている奥さんが邪推じゃすいをする。

 笑いながら言っているから本気じゃないんだろうけれど、こんな冗談は彼女にも悪い。

 自重じちょうしてもらいたいものだ。


「まぁ、そういうことにしておくよ。今から仕事かい? 」


 レナがうなずくと「気を付けて行くんだよ」と奥さんは心配してくれた。

 僕とレナは「慎重に行きます」と言い、そして宿を出て行った。


 ★


 外に出ると温かい日差しが降りそそいできた。

 魔の森で感じる朝とは全く違う日の光に、少しほんわかしながらも気を引きめる。

 レナを先頭せんとうに慣れない町を歩いて行く。

 本格的な仕事は初めてだ。

 少し緊張しながら道を行くと煉瓦れんが状の建物が見えて来た。


 ドン。


 気合いを入れて一歩大きく足を踏み出すとレナの背中にぶつかった。


「どうしたんだ? レナ」

「す、すみません。アルト様」


 少し強張った声でレナが言葉を返してくる。

 何か厄介事かと思ってレナの隣に行くと、彼女の目線の先にはボロボロな男女二人組がいた。


「? 何か犯罪でもしたのか? 」


 その二人は手になわくくられて衛兵えいへいに連れられていた。

 しかしその状態が悪い。

 男は腕が一本無くなり、目と腕、そして体中に包帯ほうたいが巻かれている。

 女は欠損けっそんはないにしろ体中に包帯が巻かれて、服は意味をなしていない。

 二人の瞳に生気せいき宿やどらずただ衛兵について行っているだけであった。


「あ、あの人達です。私を置いて行ったのは」

「! 」


 それを聞きレナの震える指先を再度見る。

 この二人が!

 僕は怒りを感じるも、大きく息を吐いて落ち着いた。


 レナが直接なにかするのならばそれを助けよう。

 しかし彼女は何も、罵声ばせいの一つもびせない。

 ならば僕の出番ではないね。


「あの人達のことはもういいです。さ、行きましょう」


 そう言いながらレナは僕を引っ張った。

 彼女の声はどこか硬かったく、先をいそがせるようで。

 この場にとどまるのはよくないなと思いながらも、煉瓦レンガ状の建物に入り、初めての依頼を受けるのであった。


「最初はゴブリン退治か」

「冒険者ギルドでは一般的な依頼になります。しかしあなどれません」

「魔物討伐で一般的ということは、それほどまでに被害が出る可能性があるということだろ。侮らないよ」

「流石アルト様です」


 町を出て近くの森へ足を向ける。

 道中ゴブリンの情報を交換した。


 ゴブリン。冒険者達はこの魔物を『緑の悪魔』とも言うらしい。


「単体の強さは強くありません。それこそ弱小魔物筆頭ひっとうと呼ばれるくらいには。しかしその発生率はすさまじく、一匹見つけたら三十匹いると思え、と言われるほどになります」


 歩きながらレナが言う。


 ……、弱小魔物筆頭か。

 やっぱり魔の森のゴブリンは異常個体だったんだな。

 棍棒こんぼうを振り回すだけで地面が陥没かんぼつしていたし。

 森でのことを思い出して遠い目をするけれど、レナの言葉で現実に戻された。


「放置していると農村を中心に被害を出します。時には集団で行商人を襲ったりとまるで人の山賊のような行動をとる事もあります」

「……本当に弱小魔物か? それ普通に危険度が高いと思うんだけど」


 僕が聞くとレナは苦笑いを浮かべる。


「個としては弱小です。確かに集団を作ると危険度がね上がりますが、定期的に引けばふせげる被害なので」

「それでFランク冒険者への依頼になる、ということか」

「ええ。簡単に倒せることから依頼料も低く、初心者冒険者の戦闘訓練にもなります。またゴブリン討伐依頼で振り分けも行っています」

「振り分け? 」

「ええ。個人でゴブリンを倒せる力は冒険者として最低限必要な力になりますので、もしこの依頼で失敗をり返すようでしたらギルド除名がされますね」

「依頼失敗による被害と死者を出さないため、か」


 その通りです、とレナはうなずく。


「今回発見されたのは一体。私達が選んだ依頼はそれの討伐になります」

「逆に探す方が大変そうだ」

「確かにそうですね。しかし裏に複数いると思うので案外簡単に見つかるかもです」

「……それ矛盾むじゅんしてないか? 」

「私達が受けたこの依頼の裏で同時に上位冒険者によるゴブリン集団探索と討伐の依頼が出されていると思うので、そちらは大丈夫かと」

ようは一体だけ倒して帰れば、他の冒険者がゴブリンの集団を倒しているという算段さんだんか」


 僕は納得する。

 けれどレナは「しかし」と続けた。


「ゴブリンは他の魔物と異なり、発生から村を形成するまでの時間スパンが短いです」

「ならば早く倒さないとな」

「ええ。それに上位種への進化スピードも他の魔物よりも速く侮れません」

「上位種がいる可能性がある、ということか」


 レナが大きく頷き前を見る。

 少し暗くなったと感じるとそこには森が広がっていた。

 魔の森ほどではないけれど、それなりに大きな森である。


 さぁ、最初の仕事と行こう!

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